∈でーえむえむそうこ∋ 1013 剌H分の夢枕 「ほんとさーそろそろ恥ずかしいから夜這いとかやめてくれない?」 「そうでもしないと主はおれのことを意識してくれないだろう…」 「もうちょっと正攻法でいこうよ。何でいきなり体から始めようとすんの」 「正攻法…」 「…はあ…主も大変だ。…って、噂をすれば。主だ」 「……こんな夜分に、どこへ行くんだ?」 「さあね。元々夜遊びの多い人だし」 「……」 「…追わないの?」 「清光こそ」 「俺からわざわざ追ったりはしませーん。あくまで俺は主に追って貰いたい派なので」 「はは、そうだったな」 「…長曽祢は追いかけたい派でしょ」 「ああ。…だから、追ってくる」 「いってらっしゃーい。間違えても背後からいきなり抱き付かないようにね」 「えっ」 「は?何その反応…いや…そんなことしたら主に投げ飛ばされるのがオチだって分かってんだろ…?」 「……普通に肩を叩くとする」 「そうしてください…」 * 「………」 「……(門を出た、ということは散歩か…?)」 「散歩だけど、付いてくるつもり?」 「っ!」 「…長曽祢か。何か用?」 「そうだった…主の索敵値の高さを忘れていた…」 「お前等こぞって忘れるよね…そろそろ大人しく俺の背後取ろうとするのやめれば良いのに」 「…難しいことこそ、挑戦したくなるのだろう」 「ふうん」 「……どこまで行くんだ?」 「…まあ、ちょっとそこまで?」 「付き合おう」 「寝ろよ」 「まだ眠くない」 「えー」 「…一人の方が良いか?」 「うん」 「……なら尚更共に行こう」 「……」 「そう嫌そうな顔をしないでくれ。主が一人になりたがるときは総じて寂しいときだと光忠が言っていた」 「オカンめ…余計なことを…」 「第一その軽装で彷徨われるのも不安だ」 「軽装って…Tシャツに短パンって標準的な寝間着でしょ…」 「主の生足を守らなければならん」 「変態か…。……ん!あー…」 「主…?」 「敵機……じゃないか。誰かの偵察機だ。何でここを?」 「……」 「長曽祢、直上」 「ん?………ああ、音が…なるほど」 「近くの鎮守府の艦娘だろうな。…夜偵まで使ってご苦労なことだ」 「……」 「…なに?」 「主は耳が良いのか、目が良いのか」 「夜目は利かないよ。常人と変わらないかむしろもっと見えてない。夜にはすこぶる弱い」 「そうなのか…」 「耳も…まあ少しは良い方だけど。俺が気配に敏いのは体内…なのか体に染みついてるのか電探に似た感覚を持っているから」 「でんたん…?」 「要勉強。電波探信儀。気になったら調べてみて。まあレーダーだよ。…レーダーの方が分からないか」 「ああ…とりあえず勘が鋭いとかそう言ったことではないことは分かった」 「そう。……」 「まだ、おれは帰らないからな」 「…わざわざ腕を掴むことはないだろ…」 「主は放っておいたら一人でふらっと消えてしまう。…これは本丸の色々な奴が教えてくれた」 「俺ってどう言う人間として認識されてんの…」 「その自由奔放さは、好ましいが不安でもあるな」 「……ところで長曽祢、お前寒くないの?」 「え?」 「秋の夜長はよく冷える。…お前俺と布面積そんなにかわんないし」 「…その言葉、そっくりそのまま返す。主こそ寒くないのか?」 「俺は体温高いから」 「体温が高いからとは言え…」 「本当だよ。俺の平熱状態は他人の微熱状態だから。…触ってみれば分かると思うけど」 「……く、首か」 「脇より触りやすいかと思って。…ん」 「失礼する……本当だな、熱い…」 「…これも体質。熱を篭もらせやすいというか…発散が下手なんだよ。だから寒さには強い」 「……主、ならば散歩の間手を握っていても良いか…?」 「上着取ってくれば」 「その間に一人で行ってしまうだろう」 「ばれたか」 「油断も隙もないな」 「……さすがに足の速さは負けるだろうなあ…長曽祢こう見えて打刀だもんなあ…」 「ん?…そうだな、速さでならあまり負ける気はしないな」 「…はあ…まあ良いか。はい、手」 「え、あ」 「繋がないの?じゃあいいか」 「まっ!繋ぐ!繋ぐぞ!」 「……うわあ」 「な、なんだ主…」 「長曽祢手でかいなあ…むかつく…」 「何故手が大きいだけでむかつかれるんだ…」 「……自分より小さな手を繋ぐことはあったけど、自分より大きな手に繋がれるのは、大分久しいから」 「主…」 「子供の頃思い出すなあ。……父さん、姉ちゃんが手繋ぎたがらないからっていっつも俺と手繋いでたなあ…」 「……」 「…懐かしいな…家族旅行好きな人だったから…ひまわり畑とか、ラベンダー畑も行ったな…あと、えっと…」 「…あるじ…っ!」 「…なつかしいなあ…なつかしい…」 「主…っ」 「…こんな身長差で、父さんに抱き締められたことはなかったな。…あの人も背の大きい人だったし…俺もこの年で父親に抱き締められるとかは、ちょっとって、思ってたし」 「おれは父親の代わりにはなれない。だがこの体格が父親を思い出すなら、そう思ってくれて良い。だから、無表情で、涙を流さないでくれ…っ」 「……うわ、俺泣いてる。やばい。あはは」 「主…っ」 「…長曽祢も体温高いなあ。俺よりは低いけど。…そうだなあ、父さんもがっしりしてたから、体格は近いかもなあ」 「……っ」 「……生きてる間に、もっと甘えておくんだった」 「っ!」 「………っふ、ぅ…っ…ぐ…っ」 「……主…」 * 「悪いなー元々涙腺弱いんだけど、今日は特にだめだった」 「……」 「やーすっきりすっきり。…これで気持ち良く眠れそうだ」 「…もしや、だが。泣くために、本丸を離れたのか?」 「泣くつもりはなかったよ。…でも、まあ、近いかな」 「……」 「家族の夢を見たあとは精神も情緒も本当に不安定になるんだ。そんなときに、お前達に会ったら変に心配されるし、凄く甘やかされそうだし、もう色々無理」 「おれ達は…主を支えるために、ここに居る」 「…日中の俺を支えてくれたら良いよ。夜間は…どちらにせよ暗闇は人を不安にさせる。そこを一人で耐えられるようにしておかないと、後々俺が保たない」 「…夜間の主を支えたいと言ったら、傲慢か?」 「傲慢とまでは言わないけど…過干渉、かな」 「……おれは嬉しかった」 「うれしい?」 「主は、喜怒楽は見せてくれる。ただ、哀だけは、頑なに見せない」 「あい…悲しい、か」 「ああ。…見せてくれるのなら、喜怒哀楽全てを見たい。全てを教えて、共有させてほしい」 「……まあある意味、悲しみはどの刀も持っているもんな」 「怖いのなら、悲しいのなら、おれに縋ってくれていい。むしろ縋ってほしい。主の涙を受けとめたい」 「泣き虫ですけど別にそう頻繁に泣きはしませんから」 「ああ、それは分かっている。主は気丈だ。だからこそ糸が切れそうなとき、張り詰めている緊張を、おれの腕の中で緩めてくれないか」 「………」 「そのための、この体格なのかもしれない。打刀だが、体の大きさは太刀と相違ないつもりだ」 「……新撰組局長の刀は、言葉の扱いが上手だね」 「…どう言う意味だ?」 「…気持ちは受け取る。ありがとう。だけど、誰かに縋るわけにはいかないんだ」 「なぜ…」 「俺とお前達は永遠じゃない。俺はいつか審神者ではなくなるだろうし、お前達もいつまで俺の近くに居るか分からない」 「おれは主から離れる気はない」 「…だめなんだ、甘える先はこれ以上増やせない。これ以上増やしたら俺は…立ち行かなくなる…」 「主…」 「優しくしてくれるなとは言わない。でも、踏み込んでは来ないでほしい」 「それは」 「……離れ難いものが増えるのは、もう嫌なんだ」 「……」 「……戻ろう。そろそろ寝ないと明日の総員起こしに起きれなくなる。俺が起きないと長谷部が心配して起床ラッパ吹かないから」 「…主…」 「今夜のことは忘れよう。明日からまた、セクハラをする長曽祢にキレる俺。そういう図。な?」 「……」 「…俺を救おうとしないでくれ。俺が、救われる気がないのだから」 「それでも、その心を救い上げたいと言ったら」 「先に心を絶つよ。…いや、先に命を絶つかな。…生ある限りは一人で背負っていくから。そっとしておいてくれ」 「……」 翌日からセクハラの方向性が身重の妻を案ずる夫のように変化する長曽祢であった。 本丸の朝は長谷部の総員起こしから始まります。 ×
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