// 揺りかごから墓場まで歓迎されない世界の屋上で
丘の上にあり屋上に天文台がある珍しい学校。その稀少な天文部よりも屋上を占拠している自覚はある。合鍵で入り込んで秋と冬を混ぜた高さの空の下、天気の良い昼休みに、足を伸ばして食う飯は嫌いじゃない。天文台の壁に背をつけて、いつも連んでる二人の会話に時折茶々を入れる。横に並んでるxxxは最近ウィルキンソンにハマってる。その向こうのユースタス屋は焼きそばパンそれ何個目だ?
xxxがペットボトルに口をつけて傾け、喉が動いて透明な炭酸水を嚥下したことを俺に見せつけるのと一緒に、眼鏡の黒いつるがひっかけられた形のいい耳が見える。俺は今日の朝からずっと、昨日の夜寝る前に見た、もう大きい子猫が人間の耳朶に吸い付いて離れない短い動画を、頭の中で無限にリピートしているのにだ。ガムを包み紙に出してユースタス屋がゴミ入れてる購買のビニール袋目掛けて放る。たぶん入った。
「飴屋、耳かせ」
「ん」
ボトルのキャップを閉めたところで声をかけて、軽く顎に手を添えて、小さい耳たぶを舌と唇で挟んで濡らしてから軽く吸った。
「ふわ!?」
驚いた声を上げたが飛びのいたりはしない。ピアスホールの空いてない処女耳を、ちゅ、ぱ、とわざと可愛らしく音をさせて吸う。俺がしやすいように向こうへ少し頭を傾けた。偉いぞ。大人しくしゃぶられてろ。口に隙間を開けて、わざと水音を立てるとエロくて良い。
「どしたの、めちゃおっきい猫ちゃんだ」
母猫にせがむように、愛に飢えた幼獣が柔らかな肉へちゅうちゅうと音を立てて吸い付くのを、舐める仕草から連想したのだろう。xxxの香水と体臭に混じって知らない柔軟剤の匂いがする。カーディガンだろう。これは嫌いだ。匂い変えるなら俺に相談してからにしろ。
「んー、」
一度耳朶から唇を離し同じ強さで首すじにも二箇所吸い付くと、xxxがゆるく立てていた片膝を居心地悪そうに体の方へ引き寄せた。素直でイイコだな。
「予鈴なるぞ」
デザートのドーナツまで咀嚼し終わったユースタス屋がため息ついて立ち上がりながら声をかけてきた。ベルトループに通した鍵が打つかって音を立てる。邪魔すんなよ。あと俺を見下ろすな。
「キッド、キッドちょっと来て、一緒に立てなくなろ」
「ならねェ、前屈みで立て、ほらトラファルガーxxx離せ」
「嫌だ」
ユースタス屋が俺らのことを放っておかねェのは、屋上への扉の合鍵を今持っているからでも、購買で買ったxxxのための飴をポケットに持っているからでもなく、なんだかんだ面倒見がいいからだ。それから、俺に独占させないように番をしてる。xxxがリード持ってるほかのどの犬より牙が鋭い。ツラも怖い。xxxが蕩ける声で絆して、吸い付くような肌で撫でてきたら俺たちは全員自分からハーネスに首とおす。
「キッドの耳吸っていいから」
「おい」
「嫌だ」
「あはは」
xxxが今度俺にもやらしてと小声で言うから渋々離れた。絶対だぞ。絶対しろ。
ユースタス屋が背伸びをしながら俺たちが立ち上がるのを待っている。この世の終わりを世界中に知らせますってくらいの力強さで予鈴が響き始めた。
「あー、鳴った」
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