introduction -Nina-
はじめましてのキッカケはまあ、ともかく。
二度目ましての「偶然」には、柄にもなくちょっとだけ心の螺子が緩んだ。
また居たりして。
そんなことを考えながら町をぶらついて三度目。
そしてしっかり期待して迎えた、四度目。
繰り返された「偶然」をちゃっかり「必然」で塗り替えて。
なんかソレっぽくね? て、一人で勝手にわくわくして、どきどきして。
ぱたっと会えなくなっても。
まあそんなもんかって笑ってみても。
いつかまた。
それをどこかで期待していたし、なんとなーく、会える気がしてたんだ。
それがまさか。こんな形で五度目ましてが訪れるだなんてさ。
親切なの?
意地悪なの?
どっちなのよ、カミサマ。
「あ。あのコ可愛くね?」
地味ーに混乱して向かえた高校生活一日目。全ての日程を終えてみんながバラバラと下校していく中、俺はなんとなくノリの合いそうなやつらではじめての寄り道の相談をしていた。
そんな中誰かが発したその一言。男供の視線が、一斉に窓の外に向かう。
だけど俺らの視線を知ってか知らずか、ぷいと正面を向いてしまったその背中に、顔見えねえ、と隣の奴がうなった。
がっかりムードのなかで、「マジ可愛かった」と興奮気味な目撃者。
そして
「……逢坂梨央」
一人にやりと笑う、俺。
「え? 何? 新名」
「あのコの名前」
後姿でわかるとかマジきもい。
でもね、俺ずっと探してたんだよ。あの背中を。
あるときは無意識に。あるときは意識して。
「マジ? 知り合い? ちょ、紹介してよ」
「えー無理ー」
「ええっいいじゃん! 可愛い女子は共有財産だぞ!」
背中はみるみる、ぐんぐんと小さくなっていく。
ねえ、こっち見てよ。
そしたら俺、一番イイ顔で手ぇ振るからさ。
そんな俺の願い虚しく。
振り返るどころか、校門にたどり着いたところで二人の男が彼女の隣に並んだ。
「わ、あれ桜井兄弟?」
そう。あれが噂の桜井兄弟。
噂のレベルもめちゃくちゃだけど、見た目のインパクトもいろんな意味で最強だ。
幼馴染というかわいらしい響きが不似合いな立派な番犬二匹に囲まれ、彼女はそのまま、するりと視界から消えた。
「……する?」
「……え?」
「しょーかい」
ま、無理だよね。そんな確信をこめて、にこっと笑顔を浮かべる。
それに対する返事は、力のないへらっとした笑顔。
人の威を借りて牽制なんて、正直むちゃくちゃ癪だけど。
この効果。背に腹は変えられない。
「ま、桜井兄弟抜きにしてもあの人あれで一応センパイだしさ。そー気軽には……」
それに俺。コーハイだし。
そういう意味では、無力だ。
「え、まじ? 2年?」
「そ。」
先輩、後輩。
自分で言いながら、そのフレーズが地味に心のはしっこを突いた。
たったひとつ。
あってないような年の差だけど、同じ制服を着ている以上、どうしても上下が生まれる。
私生活が見えそうで見えない、そんな微妙な立ち位置も、「後輩」ならではのポジショニングだ。
「……せめて違うガッコーならなあ」
また会えた。これからはいつでも会えるのに。
近くて遠いこの景色。
やっぱ嫌がらせでしょ、カミサマ。
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(110903)
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