ふたりはトモダチ。
体育の授業の後、前半クラスの間でちょっとした噂話が流れた。
それは、「ルカ君と結が手を繋いでいたらしい」というもの。
ちょうど試合の順番が回ってきていた頃の出来事でクラスの女子に目撃者はいないのだけれど、見た! という証言が幾つかあるみたい。
そしてそれは、私達と入れ代わりで休憩に入ったクラスの男子の中からも出ていて……
「おい不二山、どーすんだよ。嫁が浮気してんぜ」
結とワンセット、夫婦とまで言われている不二山君にまで噂は飛び火していた。
「あ?」
だけど当の不二山君は堂々としたもの。体育で消費したカロリーを補うのに忙しいらしく、せわしなくお箸を動かし続けている。
「だからあ、笠原が桜井弟と手を繋いで……」
「手ぇ繋いでっつーより連行って感じだったぜ」
「え、見てたのお前」
「見てた」
「……見てたなら余計気になんない?」
「全然。」
全然。そう言ってお弁当の唐揚げをひとつ丸々口に頬張る。
全く動じた様子を見せない不二山君を前に、からかう気満々だた男子達が逆に気を遣いはじめた。
「まああいつら、仲いいしな」
とか
「確かにギュッて感じじゃなかったよな」
とか、色々。
それを見ていた周りの女の子達も、まあそんなもんかと落ち着きを取り戻しはじめる。
結果として、「嫁」の部分を否定しないまま、更に周囲にも否定させることなく噂を蹴散らしちゃった不二山君。
……うん、すごい。やっぱりなんかすごいな、この人。
付き合っているわけではないみたい。それでも否定しないってけとは、多分「そう」いうことなのだろうけれど。それを直接聞く勇気なんて私にはない。
結に聞いてもきっと無駄。結は……ううん、私達は、ヘンなところでちょっと秘密主義なところがあるから。
「笠原さんって、やっぱヤンキー入ってるよね」
そんな声が聞こえてきたのは、男子達の話題がすっかり別方向へとシフトした後だった。
「あーわかるー。よく桜井兄弟とつるんでるし。美人は美人だけど、なんか普通じゃない威圧感あるわ」
よくある女の子同士の噂話。
思わず振り返ってしまった私に、噂をしていた子達ははっとした表情を浮かべて慌てて両手を振った。
「ごめんごめん! 逢坂ちゃん、仲いいもんねっ」
「あの、別に嫌いとかそういう話じゃないからっ」
うん。今のは好きとかきらいとか、そういうことじゃない。
もっとずっと単純な、「羨ましい」とか、「ずるい」とか。要はそういう話でしょ?
こわくなんてない。結は綺麗。
可愛いグロスやナチュラルなネイル、とにかくいっぱいおしゃれをしても。あの子の「自然体」には絶対に勝てないもん。
それにすごく可愛いんだ。
「……結、結構可愛いんだよ」
笑顔がちゃんと、心につながっているから。
「またまた。未来のローズクイーン候補が何言ってんの」
言葉が、ちゃんとまっすぐだから。
「結ちゃんは可愛いよ」
「え……っ」
突然割り込んできた声に、みんな一斉に顔を上げる。
声の主は、ずっとクラスの話題の中心だったルカ君。
あと少しで授業が始まるというのに、全くあせる様子がない。
「結ちゃん、ヤンキーでもなんでもないし。むしろ部活で放課後NGだし。むっちゃ青春してんじゃん」
「ルカ君どうしたの?」
「あ、ごめんね。梨央ちゃん数学の教科書貸してくんない? コウも持ってなくてさあ」
「そっか。うん、待ってね」
フォローは教科書を借りに来た「ついで」。
結とルカ君は仲がいい。だから放っておけなかったんだろう。
「琉夏ぁ。お前噂になってんぞ」
「あー聞いた聞いた。ってここ旦那のクラスじゃん。ごめんねえなんか」
「手ぇ掴んだくらいで噂になるなんて、やっぱ目立つんだなおまえら」
「あ、そこ? いや、気にしてないならいいけど」
ルカ君と不二山君、注目の二人のやりとりに教室中が注目する中、私は数学の教科書を取り出してパラパラとページを捲った。
一時間しか使っていない、真新しい教科書。
変なところはないかな? あるわけないけど、一応。
「あいつ、気にしてないだろ」
「うん。ぜんぜん」
「なら別に、俺はどうでも」
私も気にしない。
……気にしない。
「ルカ君、はい教科書」
「ありがとっあとで飴ちゃんあげるねっ」
二人はトモダチ。
仲のいい、トモダチだから。
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(11.09.08)
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