異能学園デゼスポワール


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『助平と転入生は合同研修の説明会を受ける』



「よお結城。よく会うな」
「奇遇だな。だが実は俺は別にお前に会いたいだなんて一ミクロンたりとも思っていない」
「結城は……冷たいな」

 視聴覚室。扉を開いたヒロを出迎えたのは人が疎らに座った状態の室内と、ヒロを見るなり扉のように股を開く綾部だった。彼の股は自動ドアなのか。
 こう何度も何度も見たくないものを見せられてはたまったものじゃないと、冷たい言葉を投げかければ、乙女のようになよなよと体をくねらせて泣き真似をする始末。
 説明会の日に欠席していた生徒や、ヒロの様な転入生のための振り替えの簡易説明会だが、まさか綾部がいるとは思わなかった。

「まあ隣、座れよ。遠慮するな」
「わかった。遠慮する」

 ヒロは綾部との間を一席分空けて座る。流石の綾部も人との距離感は弁えているのか、それ以上こちらへ近寄っては来なかった。
 前に立っていた男が、全員が座席に着いたのを見計らって話を始める。よく目を凝らして見ると、朝会った黒髪の背の高い男だった。

「おはようございます。もう既に皆さん御存じかと思いますが、そうでない方もいらっしゃるので一応自己紹介をしておきます。私、高等部生徒会長の六堂灯佳りくどう・とうか と言います」

 マイクを通さずとも後ろまで聞こえてくる声は、放送委員や演劇部員にも勝るとも劣らない。周囲を見渡せば皆一様に真剣な表情で聞いていて、如何に彼が生徒達に信頼されているかが分かる。

「二年、三年生の方々は既に経験していらっしゃるでしょうし、冊子も配られたのであまりこうやって説明する必要もないのですがね。仕事は仕事なので」

 六堂は笑いながら眉を下げる。女子の方からひそひそと話し声が聞こえる。どうやら彼は女子人気が高いらしい。なかなかどうして顔立ちも良い。
 等と思っていると、隣から綾部がこっそりと肩を叩いてくる。

「なあ結城」
「……何だよ綾部」
「トイレ行きたい」
「……そうか」

 取りあえず聞き流した。

「数日後に中高合同の研修がやってきます、内容は……」

 生徒会長の六堂は説明を始める。その最中、綾部はヒロに小声で話しかける。

「なぁなぁ、こっそり説明会抜け出してさ、連れションしようぜ」
「は?」

 連れション。意味は一緒にトイレに行くことである。ヒロは何年かぶりにその言葉を聞いた。連れションは小学生か中学生までだと聞いたが、高校生は流石に可笑しいとヒロは頭を片手でおさえて溜息をつく。

「嫌だ、行くなら1人で行けよ……」
「え〜〜、寂しいんだよう……来て欲しいんだよう……」

 寂しそうな顔をして、くねくねと体を動かす。切色が悪い。
 ヒロはもう綾部の相手をするたびに体力を消費しているような気がして、研修の説明をしている六堂の方に目をやる。

「この研修は自分の異能力を高める授業の一つです、政府から来る依頼などに完璧に応えられるように……」

 説明を聞いていると、綾部は真剣な表情を浮かべる。

「俺さ〜、あの生徒会長苦手なんだよな」

 綾部が意外な発言をするので、思わず、綾部の方に目線をやる。あの生徒会長、六堂灯佳の事だろうか。綾部は続けた。

「俺の必殺技の校章股間を何も反応せずにスルーしちゃうんだよなー、面白くねえ」

 それはその対応が正解だからスルーしてるのであって、股間に校章をつけてそれを見せつけるなんて明らかにスルー対象なのに何言ってんだろうなこいつ、とヒロは呆れる。

「今回は廃村に行きます。この廃村は、3年前に村に住んでいた住民全員が集団で消え、捜索したものの、住民誰1人見つからず……」

 六堂は説明を続けていた。それにも関わらず、綾部はヒロに話しかける。ヒロは適当に返事をしながら説明を聞いていた。

「で、今回は中高ランダムで選んだ班で、その村の魔物調査に行きます。魔物が出た時は交戦を。まずいと思ったら、他の班に要請を送ってください。逃げても構いませんので……」

説明を続けている。班は中高ランダムか、と考えるとヒロは嫌な事を想像した。綾部と同じ班とかまじ無理かも……とヒロは口に出そうなのをぐっと飲み込む。

「……ことは無きよう。では……」

 そろそろ終わりそうだ。ヒロが安心しきると綾部はヒロに耳元で、

「同じ班になれるといいな!」

 嫌だ。正直嫌だ。ほんとやめてくれまじやめてくれ開脚の変人と一緒の班とかもう死ぬ気がする、とヒロは黙り込んだ。
 研修説明会が終わった。


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