02
船酔いにうなされ続けていたレイラは深夜までぐっすりと眠ると船酔いもだいぶ楽になったため静かに起きた。
初めての船ということで船酔いをしていた中、興奮していたようで船酔いが楽になった今、どうも寝付けずにいる。
レイラは一度夜の潮風に当たろうと甲板へ出た。
昼間の乗組員たちの活気で明るかった甲板も夜は不寝番以外寝静まり静かである。
海は静かに揺れていた。真っ黒にも見える海は月が反射し、その部分だけ青白くなっておりどこか幻想的だ。
少し肌寒いくらいの風がレイラの肌をすべる。
「おおう、」そう声を上げぶるりと身震いした彼女はもう引き上げるかと縮こまりながら中へ戻ろうとした。
と。
「あ・・・」
甲板に出てきたもう一人の人影に気づきレイラは声をあげた。
それは神田だった。髪を下ろし、薄いカーディガンを着ている。そして腕にはもう一枚カーディガンがあった。
神田の髪を下ろしていつもの黒いコートを着ていない姿を見てレイラは胸をときめかせた。
神「・・・・外に出るなら、これを着とけ。」
ぶっきらぼうに神田はそういって腕にかけていたカーディガンをレイラに放る。
レイラはそのカーディガンを受け取った。
神田が持っていたからか、温かい。神田の優しさまで温かさと変わっているようだ。
「わざわざ、もってきてくれたの?」
神「どっかのバカ勇者が、風邪を引いてもらっちゃ困ると思っただけだ。」
「・・・・ありがとう神田。」
神「っ・・・・」
不覚にも神田はレイラのお礼の言葉にプラスされた柔らかい微笑みに目を奪われる。
こんな風にレイラが神田に微笑みかけたのは初めてのことだ。
いつものレイラなら必ず怒っていた場面だ。なのにレイラは素直にお礼を言って神田に微笑んだ。
穏やかな波にいつもよりレイラの心は穏やかになったのかもしれない。
神田はこの海のせいか、と心の中でそう蹴りをつけた。
「はぁ・・・・あったかい。」
カーディガンに袖を通さず、包まるようにレイラはそれを肩にかけていた。
淡い、グレーのカーディガンの袖がゆらゆらと潮風に揺られて揺れる。
神田は自然と隣に立った。
二人で、船の縁に寄り、月の反射した海を眺める。
ぽつりぽつりと、静かに会話をした。
神「船酔いは、もう大丈夫なのか。」
「・・・・大分、楽だよ。」
神「・・・・・そうか。」
二人で、こんなに穏やかな気持ちで話したのは初めてだった。
広い海にいるせいか、心も広くなってしまったのだろうかと思う。
「・・・・どうして、神田は起きてきたの。」
神「急に、目が覚めた。」
「・・・私もだよ。」
神「・・・・・・・」
沈黙しても、海の揺らめく音が聞こえて心地よい。
くすりと笑みを漏らしたレイラは目は半開きで眠そうにしていた。
それに気づいた神田が、レイラに声をかけた。
神「・・・・眠いなら、部屋にもどれ。風邪を引くだろう。」
「・・・・神田が、運んでくれるでしょ。」
神「・・・・・・」
いつもならいうはずの無い台詞に神田は戸惑った。それはどういう意味で言ったのだろうかと。
「神田は、なんだかんだいって優しいから。」
神「・・・・・・・」
「・・・・私、本格的に眠くなる前にもう部屋に戻るね。あした、これかえすから。」
神「・・・・・・あぁ。」
「んじゃ。」
バイバイ、という言葉はレイラの口から出なかった。もう半分眠っている状態だったので、唇が動いただけだ。レイラはおそらくバイバイと声に出したと思っているのだろうが。
ひらひらと手を振って彼女は部屋へと帰った。
神田も、しばらく海を眺めると部屋へと帰った。
この日の不思議な夜から、二人のケンカは日に日に少なくなっていった。
![](//static.nanos.jp/upload/d/dexizunii/mtr/0/0/20120923142316.jpg)