>>一歩踏み出す勇気
「怜唯ちゃん。」

昼休み、お弁当を食べ終わったところにラビ君がひょっこりと現れた。手招きをして、私をどこかへ誘い出そうとしている。
昨日の今日で、演劇部の人と会うというのは気まずい気がしたけれど、ラビ君はそんなこと歯牙にもかけていないようで、私は気を楽にして彼についていった。

「図書室のことなんさね?」

「えっ。」

彼の後ろをついて言っていたら、急に振り返りざまに言われてびっくりした。

「あれ、違ったさ?」

「あ、ううん!そうじゃなくて・・・どうしてわかったの?」

「実は俺も、読書好きの一人なんさ。」

「えっ?でも私、ラビ君の姿一度も見たことない。」

「怜唯ちゃん、昼休みは図書室こないからさ。掃除場所が図書室担当だから、昼休みはこないんだったっけ?」

「どうして、そんなこと、」

まるですべて見透かされているよう。

「俺がこの学校で知らないことはないさ。」

「そ、そうなの・・・!?」

ラビ君は得意げに笑った。

「ってことで、俺らが怜唯ちゃんヘルプするさ。」

「え?」

「週一で休もうとしたの、司書のミランダ先生のためだろ?だから、昼休みやろーぜ。そしたら週一休まなくてもいいさ。」

どう?とこちらをうかがうラビ君は、本当になんの気負いもない。

「でもどうして。」

素朴な疑問が口をついて出た。ただ脚本制作に協力しているだけの相手に、なぜよくしてくれるのか。

「なんかなあ、怜唯ちゃんの作品読んだとき、すげえって純粋に思ったんさ。話が面白くて。だから結構怜唯ちゃんのこと尊敬してるんさ。んでもって力になりたいんさ。」

ラビ君と話しながら歩いたら図書室に到着した。ラビ君は今日から、先ほど提案してくれたことをするつもりでいてくれたのだ。

「さ、みんなで頑張ろうさ。」

彼はスライド式のドアの取っ手に手をかけ、開く。そこにはリナリーちゃんと神田君がいた。

「あ・・・!」

二人はすでに本棚に向かって作業をしていた。神田君は一人、リナリーちゃんはミランダ先生と。
二人は私に気づくとこちらをみた。ミランダ先生は、二人の後に一拍くらいおいてこちらをみた。私がいることに気が付くと、とても明るい顔をしてくれた。
私はミランダ先生のところへ近づいた。

「あの、ありがとうね、古市さん。」

「いえ、その、全部、ラビ君のお陰なんです。」

ミランダ先生は、たいそう嬉しそうに、笑っている。

「古市さんたちの、厚意に感謝したいの。」

「でもほんとは、こんな風になったの、私にも原因がありますから・・・」

「そんな!むしろこんな私のために・・・」

「先生はこんなじゃないです・・・!」

感謝したり謝ったりの応酬に終止符を打ったのは、神田君の咳払いだった。早くやれ、と怒られているようで私は少し硬直した。
ラビ君が、ぽん、と私の肩をたたいて、始めようといい、私たちもミランダ先生のお手伝いを開始する。

広い図書室の中、緩く担当範囲としてラビ君から割り当てられたところの本をひとつずつ見ていく。
いつもは集中できるはずだったのだけれど、今日はあまり集中できない。私が神田君の存在を前にして謝罪と感謝をまだ言えていないという状況のせいである。リナリーちゃんになら、気軽に感謝を述べに行ける。彼女は優しいし、先ほどの様子からも、あまり私がみんなに迷惑をかけてしまったことを不快に思っている様子がないからだ。しかし神田君は違う。まず昨日、理由を言えと言われて私が言わなかったということを、神田君は怒っている。先ほどの咳払いがそれを如実に語っていた。先ほどの神田君は、咳払い一つでも恐ろしかったのだ、私には。そんな恐ろしい相手に近寄っていくことがまずできそうにない。

その日は気まずい思いを抱えながら昼休みを終わらせてしまった。


*


演劇部の活動場所である黒影会館は、そんなに広いわけではない。しかし演劇部は、大会議室だけではなくもう一つ小会議室を借りて使っている。大会議室は、役者の練習のため、小会議室は、脚本を作る人など静かな活動をする人のために使われる。
要するに、両会議室の行き来というのは、だいたい珍しいことである。

今日、役者である神田くんが小会議室にやってきた。一緒に脚本制作をしているラビくんは珍しそうにしたあと、神田くんをからかうように笑んでいた。

「どしたんさ、ユウ?」

からかい混じりな声音のラビくんを無視して、神田くんは私を見る。
小会議室には他に二人ほどいて、全員が美形な神田くんに注目していた。

「少し、いいか。」

神田くんは私をまっすぐ見つめている。その視線に圧倒されて、私はそのまま頷いた。
ラビくんに目線だけで了解を得て、私は小会議室から出る。黒影会館の裏口から外へと出て、私と神田くんは黒影会館の裏手へきた。

「え、と・・・」

私は何から言えばいいかわからず、口をもごもごさせる。
昨日、理由を言わなかったことをきちんと謝りたいし、お礼も言いたかった。ただ、神田くんからの圧力を感じて、口が思うように開かない。

「・・・悪かった。」

「え?」

謝ったのは神田くんだった。謝ることなど何もないはずの神田くんが、謝っている。

「どうして謝るんですか、私の方が悪いのに。」

「俺にも非があった。」

「そんな!・・・私の方こそ、ごめんなさい。それから、図書室のこと、手伝ってくれて有難うございます。」

私は神田くんに伝えたかったことを伝えれて、やっときちんと彼と向き合えることが嬉しかった。しかし、これは神田くんが私が謝罪しやすいよう取り計らってくれたことのような気がして、今日一日の受け身な自分に恥ずかしさを感じた。本当は自分で解決しなくちゃいけないことを、ラビくんや神田くんが先にお膳立てしてくれた。私は何一つ自分から行動を起こしていない。

「俺の用はこれだけだ。」

と言ってすぐにいなくなった神田くん。私はその声に聞き惚れる余裕もないまま、自分に対して、恥ずかしさを感じていた。

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