>>発足、後援会
あれはほぼ告白に近い言葉だった。そして神田君は私が返事をしなければいけない期日をはっきりしっかりと宣告したのだ。私は地区大会後もそのまま演劇部に残るとは限らないし、地区大会前に、神田君の調子を狂わせてしまうようなことをしてしまうのもいけない。だから地区大会が終わったらなのだろう。脚本家としてまだ演劇部と関わり続けていく私と神田君、それから演劇部の関係を悪くしないようにという神田君の配慮なのだろう。

はっきりとした宣告だったけれども、水面下に「好きだ、付き合ってほしい」という言葉を沈めたままにしてくれたおかげで、私はありがたいことに普通に「わかった」と返事をして、私たちはこれまで通りにすることにした。

小会議室を神田君より先にでて、大会議室へと戻ると、ラビ君とリナリーちゃんが二人一緒に駆けつけんばかりの勢いで私のもとへ向かってきた。

「どうだった? 大丈夫?」

と心配そうなリナリーちゃんに私は「うん」といってうなずく。

「怜唯ちゃんはなんていうかほんとに……なんでもなさそうにいうんさね」

ラビ君は私の落ち着きぶりにあきれたように笑う。

「だって……」

私は答えようとして口ごもる。
もちろん喜怒哀楽はある。かっこいい人をみたらドキドキするし、甘い声でささやかれたら、恍惚とした心地になる。恥ずかしいことがあったら全力で穴の中に入りたいしかっこいい人と距離が近かったらそれだけで妄想が膨らむ。でもその瞬間を過ぎ去ると、すぐさま自分で分析が始まってしまうのだ。そうして全部が全部、何事もなかったかのように平淡に戻ってしまう。
神田君から見つめられて、すごく心臓がうるさかったし、ドキドキもした。でも私は「わかった」といった瞬間から分析を始めてしまった。今まで光源氏だと思っていた神田君が急に侍のように私に切り込もうとしてきたから、そのギャップに驚かされたのだと、すぐに結論に至った。結局これはいわゆるギャップ萌えというやつで、憧れている神田君なのだからなおさらそうなのだろうと考えた。そう考えなければいいじゃないかということじゃなくて、自然とそうしてしまう。

「……なんだか、本当によくわからないの」

結局私は一言そう答えた。ラビ君だったら、「自分の気持ちがどうなのかわからない」と私が言っているのだと察してくれると思って、わざと省略した。もしかしたらこんな風に後で分析してしまうのは、私だけなのかもしれなかったから、「どう説明したらいいかわからない」というのが嫌だった。「何が」という問いが次に来るのは明白だ。

「それで、どうだったの?」

リナリーちゃんは何があったのかとても聞きたそうにしていた。

「明日のお昼休みに言うね」

いつ神田君が来てもおかしくなかったから、私は一旦話をここで切り上げた。


*


「まず昨日は何があったの?」

翌日の図書室。今日は女子会メンバーにラビ君も加えて、私と神田君の話を根掘り葉掘り聞かれた。

「まずは、その……あのことを、ごめんって神田君が謝って……」

神田君に対してどうすればいいのかわからなくて、私は助けを求めるように答えていた。

「私が、気にしなくていいよって言ったら神田くん、俺は気にするっていって、それから、地区大会が終わったら、言うって。それだけ」

「ユウはどんな感じだったんさ?」

「えっと……すごく、真面目な感じ」

「それって、地区大会が終わったら告白するってことね」

「そう、だよね」

改めて言われると、不安で緊張してくる。自分の気持ちが分からないことでどうすればいいのかも分からなくて、迷子みたいな心境だ。

「古市さんは、どうするかもう決めたの?」

ミランダ先生の質問に私はゆるゆると首を振った。

「まだ、どうすればいいか分からないんです」

「怜唯の気持ちは?」

リナリーちゃんがずいっと前のめりになる。私は俯いて、首を振る。

「それも、よくわからないというか……」

「まあ、あせることはないさ。ユウだって地区大会まで待つ気みたいだし」

恋愛に関して先を要求したがるミランダ先生とリナリーちゃんを落ち着かせるようにラビ君が言った。私は少しだけ安心した。

「そうね。怜唯は今回のことで神田を避けるようなことはせずに、丁寧に付き合って、考えていけばいいと思う」

リナリーちゃんの言葉にミランダ先生がうなずく。あまりのうなずきように、実体験があるのだろうと予測した。マリ先生、いつもどうしたらいいか分からずに遠回りばかりするミランダ先生をきちんと待っていてあげたのだろう。

「なんだか、相談に乗ってもらってありがとう。ミランダ先生も、ありがとうございます。どうしたらいいかわからなかったから、すごく、安心しました」

「いーっていーって。ユウってすっげぇ不器用なくせに助けようとしたら怒るんだぜ? だから、俺らどっちかっつーとユウが誤解されないよう立ち回ってるようなもんなんさ」

「そうなんだ」

「でもだからって怜唯が決めた事なら、神田と付き合おうが神田を振ろうが、どっちでもいいのよ? 私たちは怜唯が選ぶ方を大切にするわ」

「なんだか、本当にありがとう」

「とりあえず地区大会がんばりましょうね」

リナリーちゃんはそういって締めくくった。まとめるのがやっぱり上手で、さすが部長さんだと思った。

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