きっと最後は手を伸ばす | ナノ
きっと最後は手を伸ばす
第二予選が始まると、神田は一番目、レウを安心させるべくラビを標的にしたが、数度打撃を加えると、イノセンスを使っていないこともあってラビは逃げ出した。すると逃げたさきでラビはブックマンに捕まり、そのまま苛め抜かれたすえに、地面に這いつくばらされていた。

ラビを逃がした神田は、結託したファインダー四人に囲まれたが、難なく撃退。残り四人ファインダーはいたが、神田から極限まで離れたところで固まっていた。神田が体力を消耗しきったところで攻撃を始めようと時機を見計らっているようであった。

ここまでで五人が脱落したため、残りは九人、あと三人を倒せば本選に神田は進めた。当然、ここで楽なのはファインダー三人を倒してしまうことである。そうすれば厄介なエクソシストたちとは本選で一対一で、しかも周りを気にせず戦える。

しかしそこで邪魔がはいった。手刀による突きが神田の鼻の先を掠めたからだった。
それはクロウリーだった。しかも、イノセンスを発動した。
イノセンス発動は禁止だったはずと神田がコムイに抗議すると、クロウリーだけは例外だということで、神田はそれに従いクロウリーと戦うしかなかった。
肉体が強化されたクロウリーはAKUMAの血が切れればなんてことはない。神田はそれまで粘り続け、最終的に勝ったが、体力の消耗は激しかった。

こうして残り二人を残すところになった。
神田はアレンを一番警戒していたが、どうやら本選で一対一で戦いたいらしく、その後は神田がファインダーを余裕で倒して第二予選は終わった。

勝ち抜いたのは、ファインダー二人、マリ、ブックマン、アレン、そして神田となった。

本選は総当たり戦だ。

つまり全員が全員と戦わなければならない。勝てば一点、負ければ零点となり、持ち点の数で最終的な勝利を決める。

本選が決まった時点でファインダー二人は恐れをなして棄権した。
そのため、神田が戦う必要があるのは、マリ、ブックマン、アレンの三人である。重要なのは、ラビに勝利したブックマンに勝つことだ。レウがより安心できる。
マリであれば、いざとなったら神田の意向をくみ取り負けてくれることもあるだろう。そうすれば、神田が全力で戦う必要があるのはブックマンとアレンだけだ。

本選では、マリ、ブックマン、アレンという順に神田と対戦する。

一戦目。

神田とマリだけが中央で向かい合った。

「神田、できればお前に勝ってほしいが、レウを納得させるためにも、本気は出す。それでいいか」

マリはそういったが、穏やかで心優しい男であるので、この言葉も優しさから来る演技なのだろうと神田は思った。レウに聞かせるためだったのかもしれない。

「ああ。構わねぇよ」

神田はそう返事をして、マリと戦った。

試合は、そう長くはかからなかった。マリは神田が思った以上に本気でかかってきたが、それでも神田を上回らせてくれた。神田とマリにしかそのことはわからないほどだったのだろう。試合直後にレウをみると、頬を上気させて嬉しそうに神田を見つめていた。

すぐに二試合目に入った。次はブックマンとの戦いである。

「小僧、今日こそ決着をつけてみせようぞ」

これまでブックマンとの戦いは延々と続いてしまうことが多く、途中で中断されることもしばしばであったので、決着がつくということがなかったから出てきた言葉だった。

「そろそろ育毛だけに専念しろよ」

ポーズをとり始めたブックマンに神田が挑発して、試合が始まった。

ブックマンは武術の達人である。東洋的な特殊な武術を用いて戦うので、いつも神田は苦戦させられる。何度も組手をしているのである程度見抜けるが、それでも、一瞬たりとも気が抜けない戦いだった。

そのため神田は、ある程度非道な手段も用いた。
主に神田は、ブックマンの毛髪を狙ったのだ。鷲掴みにし、そのまま自分に引き寄せるという手段であった。こうすれば、ブックマンは毛髪が抜けてしまうのを恐れ反発ができない。神田はそこを狙ってブックマンを倒した。
レウは弱肉強食の世界で生きてきたので、神田が姑息な手段を使おうとも、気にしはしなかった。

「こやつめ……わしの大事な髪を使うなど」

ブックマンは悔しそうであったが、試合に負けて勝負には勝ったというような顔をしていた。ブックマンにとって、髪を死守することが勝負だったのだろう。

神田は最初の二戦を連続で行ったので、最後のアレンとの試合まで休んだ。ブックマンは神田が毛髪を引っ張ったことでよほど心配になったのか、棄権してまで育毛剤を塗りに帰った。

残ったのがマリとアレンだけになり、二人の試合のあと、神田とアレンの試合となった。

マリとアレンの試合で勝ったのはアレンだったが、マリが神田に気を使ったのか、アレンを消耗させておいてくれた。

「こんな全員が見ている前で神田をぼっこぼこにできるなんて、最高です」

「それはこっちの台詞だ」

神田は最初からアレンを本気で潰しにかかった。アレンは神田に対しては紳士の化けの皮を脱いで戦ってくるので、いつものごとく、泥試合になっていく。

「エセ紳士!」

「アホ侍!」

「穀潰し!」

「そば男!」

神田とアレンの試合は拳と悪口の応酬だった。
優勢は常に神田にあり、アレンが諦めてさえくれれば、勝ったも同然である。しかしアレンの体力と気力は神田と同等かもしくはそれ以上であったので、なかなか決まらなかった。

「クロ、クロ!」

長い間続く殴りあいの応酬に、レウも心配してしきりに神田を呼んでいた。神田はその声に答えるように一撃一撃を強めていった。

「そろそろ、くたばりやがれっ!」

「ま、だまだぁ!」

言葉では戦う意思を示しているものの、だんだんとアレンの敗戦色が濃くなっていく。それでもアレンはあきらめない。
この様子に会場ではすっかりアレンを応援する空気に染まっていった。

レウの声も、アレンを応援する声にかき消され、届かなくなる。

「らぁ!」

そのとき、強烈な蹴りをくらい、神田は後ろにとんだ。
二人の距離があき、二人はにらみあった。どちらも息が上がっている。会場はアレンの蹴りに湧いていた。

「はあ、はあ……」

「はあ、はあ……」

両者とも、荒く呼吸を繰り返しながら睨み合う。
会場も、本人たちも、次の一撃で勝負が決まると予感し、静まり返った。

お互い、示し会わせたかのように、拳を構え、走り出した。

「クロ、勝って」

拳をつきだす瞬間、切実な声が聞こえた気がして、その分、神田は重く鋭い打撃をアレンの頬めがけて放った。アレンは、その瞬間に目を見開きながら同じように神田の頬を殴った。

両者とも、殴りあったあと、しばらくはそのままの形で立っていたが、しばらくするとアレンが崩れ落ち、勝負は決まった。


その日、アレンとの試合で身体的に疲れはてた神田は、試合を緊張で見つめすぎて精神的に疲れたレウと一緒に、ひとつのベッドで抱き合って寝たという。


黒の教団最強決定本選


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