きっと最後は手を伸ばす | ナノ
きっと最後は手を伸ばす
きっかけはラビとレウが一緒の任務へ行ったことだった。
任務から帰ってすぐレウが神田の行方を探して駆け回り、神田が任務でいないと知ると、神田が帰ってくるまで自室に閉じ籠ったという。誰が何を聞こうともドアも口も開けない。唯一ケイだけにはドアを開いたがケイが運ぶ食事に手をつけるだけでケイにすら事情を言わない。最初に話す相手は神田だとレウは決めていたようだった。

レウが自室に籠って四日後に神田は帰還した。ケイが神田を出迎えて事情を説明し報告もそこそこに神田はレウの自室に向かった。

「クロ!」

神田が帰ってきたと知るとレウは神田に飛び付きめいっぱい甘えた。安心している風に見える。
レウと神田が恋人になってからレウがぴったりと神田にくっつくようになったり、笑顔の頻度が上がったことは確かだったが、極端に甘えることはなかった。よっぽどのことが起こったのだろう。

「クロ、クロ、キスして」

キスをねだられ、神田はレウの唇を貪った。先程から甘えられて、神田の方もキスをしたくなっていた。
口内まで交わるキスをレウから誘われしばらく続けた。ぬるぬると絡まりあう舌がこの上なく気持ちよく、神田もレウも興奮していた。
満足するまで続けたあと、二人は互いに額を合わせあってそれから首筋へ唇で軽い愛撫をしあった。
そこまでしてようやくレウが落ち着いた。
いつもだったらレウは唇への軽いキスで終わっていたはずだったが今日は神田の理性をギリギリまで試すまでに及んだのだった。

「クロ」

レウが神田の胸のなかで甘える。神田はゆっくりレウとともに唯一二人で座れるベッドに座った。

「何があった?」

いつもより神田を求めるレウに嬉しく思うもやはり普通ではないので神田はケイから聞いたことを思い出しながらレウに聞いた。
レウは途端に切羽詰まった様子で神田の衣服を握りしめた。

「アカと任務にいった。アカ、強かったの。そしたらアカが、クロより強いかもって言った」

「?」

アかは確かラビのことだ。しかしラビが神田より強いかもしれないといったことの何が問題なのか神田にはわからない。神田が首をかしげると、レウは本気でわかってほしいようでつかんだ部分をいっそう握りしめて言った。

「クロ、一番強い、でしょ? アカよりも強いでしょ? じゃないと、クロ、アカに負けちゃう」

ここで神田は考えた。これはまたライオンの生き方と関係あるのではと。
そこで神田はレウと一緒にコムイに相談を求めにいった。外を出歩くときレウは神田にぴったりとくっつき周囲を警戒していた。神田が何に警戒をしているのかと尋ねるとレウはラビを警戒しているのだといった。

司令室へとついて、コムイを定番のネタで起こし、レウが不安に思っていることを神田は話した。レウは司令室唯一のドアの方を警戒している。アカことラビがやって来るのを警戒している。

「レウくんが言ってるのはおそらく、ライオンの群れで他の雄が群れの雄を殺して群れを奪うことなんじゃないかな」

コムイは説明をした。
ライオンの雄は生まれた群れから追放されると放浪の末、他の群れの雄を追い出して群れを自分のものとする。群れの雄は強ければ他所からきた雄など返り討ちにできるが弱ければ必然的に追い出される。
レウはそれを人間の世界にも当てはめ、ラビが神田を打ち負かしレウのパートナー役を我が物とするのではと恐れていると言うことだ。

「レウくんを安心させるためにもラビくんを負かせばいいんだよ」

とコムイは提案したが、そんな馬鹿馬鹿しいことに神田は付き合いきれないと感じていた。レウに懇切丁寧に伝えてやればすむことだからである。

「クロ、アカを倒して」

しかしコムイの言葉に賛成したレウが神田に頼むので、男として聞かないわけにはいかず、神田はラビと対決せねばならなくなったのであった。



*


「レディース、アーンド、ジェントルマン! 今日ここに集まってもらったのは他でもない、黒の教団最強を決めるためでーっす!」

コムイがマイク片手に修練場の中央に立って司会をしている。

「……んでこんなことに……」

神田は頭を抱えた。神田の隣のレウはあまりいみがわかっていない様子だ。

「あんたこんなことするくらいなら仕事しろよ!!」

とリーバーの声が聞こえるが現在の状況に否定的な人間は少数派であった。

「飛び入り参加オッケー! 第一予選、第二予選をし、最終的に本選で勝ち残った人が最強となります! イエーイ!」

コムイが拳を突き上げると周囲から歓声があがった。
修練場内の盛り上がるほど神田は盛り下がっていく。

レウのために神田がラビよりも強いことを示すために行われるはずだったのは、ただの組手だった。レウの目の前でラビを素手で倒せば、レウも納得するだろうと神田は考えていたのだ。しかしコムイに相談したせいで、いつのまにかコムイがしきって黒の教団全体でそれを企画してしまった。コムイいわく黒の教団の誰よりも神田が強いとわかればレウも今後安心するだろうということだった。しかし大抵の団員は倒せる神田である。神田にはコムイの言い訳は詭弁にしか聞こえない。

「予選は簡単、出場者が一斉に場内に入り、最後まで立ち続けられた八人が本選に出場できます! 第二予選も同様ですが本選への出場人数は六名、第二予選からエクソシストの参加を可能とし、本選は総当たり戦です。あ、第二予選ではエクソシストはイノセンスの使用は禁止です。それではさっそく第一予選。エクソシストは参加不可。参加者はどうぞ前へ!」

コムイの言葉でちらほらファインダーなどが前に出てくる。しかし数は少ない。

「えー、みんな参加しないの? 勝者は一日レウくんと仲良くできる権利が与えられるのになあ」

「はっ?」

コムイがぼそりとマイク越しに言った言葉で前に出ていく人間が増えた。
レウはそもそもこの勝負の仕組みが分かっていないのでコムイの言葉を理解していない。ただ目の前で起こっていることを見届けているだけだ。
神田はコムイに抗議の声をあげたが歓声にかき消された。
コムイはレウを狙う男を焚き付けただけでなく神田がなんとしてでも勝たなければならない状況を作り上げてしまった。
……少なくとも、第一予選に出るような男は神田にとって眼中にもないのだが。

「それでは第一予選スタート!」

そして第一予選が始まった。

「クロ、みんな何してるの?」

意味のわかっていないレウが疑問を口にした。神田は泥試合を繰り広げている第一予選を眺めながら、分かりやすい言葉を探して教えた。

「今、戦ってるやつらの中で強かったやつと俺が戦って、あいつらを俺が倒したら、俺が強いことになるだろ、そんで、俺がラビを倒したら、黒の教団で一番強いことになるだろ?」

「……あっ、じゃあ、クロ、私のために、強い雄みんなと戦ってくれる?」

「そういうことだ」

「クロ好きっ」

レウは自分のためにこれから神田がラビ以外とも戦おうとしていることを理解して、嬉しそうに神田に飛び付いた。神田はレウのこういうところに気恥ずかしさを覚えるも、周囲にレウの心は完全に自分のものだと知らしめることができて優越感を抱く。
神田はレウの肩を抱き、第一予選を過ごした。

第二予選からは神田はリナリーをレウのとなりに座らせ、レウに要らぬ虫を寄せ付けないようにした。
第二予選からはエクソシストが参加し始める。

第二予選への出場選手は、第一予選を勝ち残った八名と、神田、ラビ、クロウリー、アレン、マリ、そしてブックマンだ。

「なんでてめえらが出るんだよ………!」

神田がそういった相手はクロウリー、アレン、ブックマン、マリに対してであった。この四人はたいして出場する理由がなさそうな人物である。

「神田をめっためたにできる機会そうそうありませんし」

「右に同じく」

と、アレンとブックマン。

「わ、私はただ、レウに頼まれただけであるっ」

「実は私もだ」

とクロウリーとマリ。神田が詳しく聞くと、どうやらレウは自分が認識している強い人物に声をかけていたようである。

レウの不安を払拭するという意味でもレウがしたことは正しかった。マリとクロウリーは仕方がない、と神田は思うが、余計なものまでついてきてしまったことに頭が痛くなるのであった。


黒の教団最強決定予選


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