レウはさっそく、 クロに好きだと伝えに行き、クロを大いに驚かせた。クロだけでなく周りにいた男のほとんど全てを驚かせた。
レウがリナリーとの会話の後、クロを見つけた場所が食堂だったからである。
「な…………」
クロは二の句が告げられぬ様子だ。頬を染めている。レウはクロの表情に守りたい気持ちを掻き立てられたのを感じて、やはりこれが好きというやつかと考えていた。
「リナリーが言ってた。恋人になって付き合うには、クロも好きじゃないとダメって」
「言ってる意味わかってるのか」
レウは頷く。
クロはさらに頬を紅潮させた。
「クロは好き?」
レウはもう一度尋ねる。
クロは周りを気にしたそぶりを見せつつ、それでもその場で頷いた。
「好きだ」
「じゃあ恋人になって、付き合える?」
「ああ」
レウはクロが頷くのをみて、嬉しくて笑顔になった。子供を作る一歩を踏み出せた嬉しさだった。
クロはレウの笑顔のあとぐらりと体をよろめかせた。どうやら目眩を起こしたようであった。レウはすっとクロの懐に入り込んで、優しく支える。クロの様子を伺うように目線を上に向けた。
「っ……」
奥歯を噛み締めているのか、クロの顔がこわばっている。
レウはクロの表情の変化についていけず首をかしげた。
「いくぞ」
突然クロはレウの手を掴んで引っ張った。レウは引っ張られるままにクロについていく。
「……手、繋いでる」
レウはいつのまにか恋人としてすることをクリアしているのに、クロの部屋についてから気がついた。
クロはレウの言葉を聞くと手を離してしまう。
「だめ、手繋ぐ」
レウは慌ててクロの手を掴んだ。それから安心したように微笑を浮かべた。
クロは空いている手をレウの頬に伸ばした。レウが手から視線を上げクロと目を合わせるとゆっくり顔が近づく。レウはキスがくると直感した。額を合わせるのではなく、キスをしてほしいとケイに頼まれた時にしたことがある。今回は、唇に、レウではなくクロがしてくれるのである。レウは自分が少し落ち着きをなくしていることに気がついた。ケイの時は癒しのある満足感を伴ったものが、クロの時には、大きな高揚感と苦しいくらいの緊張があった。
合わせるだけのキスが、あまりにも優しくてより一層、レウは高揚した。
気づけば目を閉じていて、唇が離れたときにそっと目を開けた。目の前にクロがいる。
クロはレウをじっと見つめていて、レウは胸の辺りが別の生き物のように飛び跳ねたのを感じた。
それから何も考えられなくなって、ただクロを見つめ続ける。
するともう一度、クロの顔が近づいて、それと共にレウが目を閉じると、唇がまた重なった。今度は少し離れただけでまたくっつく。少し離れて、くっつくという繰り返しが続いて、レウはまだつないだままのクロの手を握る力を強めた。
べろり、と唇をなめられ、びくりとレウは肩を揺らした。驚いて目をあけると、うっすら目を開けたクロと目があった。
「これ、何」
唇を合わせることがキスだと分かっているが、唇をなめることがなんなのか分からなくて、レウは聞いた。
「……口、あけろって意味」
クロはもう一度レウの唇をなめてから答えた。
レウはそっと、唇を開いた。
すると、クロの舌が進入してきた。レウは驚き、高揚し、クロのことしか考えられなくなっていた。
「は、ぁ……」
声を洩らしながらレウはクロの手をよりいっそう強く握る。クロはそんなレウに気づいて、握られた手をはずし、背に回させる。体が密着した。
自分とクロの境目が分からなくなるかと思うほど、レウはクロに没頭していた。
しばらくして唇が離れても、レウはクロの背に手を回したまま離れようとはしなかった。レウは離れがたくて、それにクロのにおいを感じて、それをいっそう吸い込みたくて、クロの胸に顔をうずめた。
クロはレウの背に手を回し返して、二人で抱きしめあった。
レウは今度は安心と満足を感じた。
先程までは緊張や高揚を感じていたのに、今度は安心と満足を感じている。レウにはそれが不思議だった。
「レウ、好きだ」
レウはクロに改めて言われて、嬉しさでいっぱいだった。
「クロ好き」
レウもクロに伝えた。
そこで、あっ、とレウは気がついた。
「クロと、手つないだ。キスした。そしたら、結婚できる?」
「は?」
クロは、ばっ、とレウの顔を覗き込んだ。レウはもう一度言った。
「結婚して、子供つくれる?」
クロは急に顔を真っ赤に染めて、わなわなと震えて、それからレウをおいて、部屋を飛び出してしまった。
*
後ほど、レウは改めて、恋人、結婚、子供、家族、など男女間の関係に関することの教育をしっかりと受けた。
レウには恋愛に関することだけではなく、人間の感覚をしっかりと教え込む必要がある、ということが発覚し、教団内の女性陣(ジェリー含む)はレウに人、特に女性としての価値観や恋愛を教えるために母親同盟を結成した。レウは見た目はすでに女性であっても、中身はまだまだ幼女といっても過言ではなかった。レウは偏って成熟していた。
神田はレウと恋人関係をやめた方がいいのではと、母親同盟が神田と相談の場を設けたが、神田が同意しかけたところでレウがそれを拒んだので、二人の関係は続くことになった。
二人の関係が続き、結婚、出産するのは、まだまだ未来の話である。
予感していた一歩の訪れ、下