▽ 相談3
「お悩み事かな?」
食堂で一人、食事をとっていた娟にティエドールが声をかけた。
いつも娟が頼る面子が全て任務へ行ってしまい、迷惑そうにしていた神田にはあれ以上頼るわけには行かないと思った娟は、どうやったら自分のおっちょこちょいを治せるか、一人で考えていたのだ。そもそもおっちょこちょいがなんなのか、娟にはいまいちつかめていないところもあったので、少し途方にくれかけていた。
「元帥!……こんにちは」
娟は相手が誰かを確認すると、立ち上がって、挨拶した。ティエドールは手で娟に座るよう促して、娟の前に食事と共に座った。
ティエドールは、蕎麦が今日のメニューらしい。
「蕎麦……神田さんみたい、です」
「今日はユー君がいつも食べるものを食べてみようと思ってね」
一度、少しだけ言葉を交わしたことがあったときから、娟はティエドールに包容力を感じていた。今日は一段と娟に親身になってくれそうな様子で、微笑んでいる口元から安心感がにじみ出ている。
娟はアルトの父、ユアンを思い出した。10歳で母を亡くして、娟が13になるまで、アルトを通じてではあったけれど何かとよくしてもらった。娟は力が強かったので、アルトを介してしか関わった記憶はない。
愛した女性の残した子供として、娟のことを気にかけていたのかもしれない。遠くから見るユアンのアルトへのまなざしも態度も柔らかなもので、自分にも父がいたらと思った記憶がある。
娟の生まれる前から母とユアンは仲むつまじく、娟の妊娠が分かったときも、二人の子供ではないかといわれていたらしい。娟は生まれてから5年間はユアンとすごしたという。しかし娟が5歳頃になると徐々に雪女としての力に目覚め始め、影響を受けるといけないからと、二人は別居した。娟出生の翌年に生まれたアルトとユアンは、共に村長家で生活をすることになった。
「それで、何か悩みでもあるのかい?」
ユアンと話した記憶がない娟は、ユアンのように思えるティエドールから話しかけられて、少しだけドキドキした。娟は緊張でおろおろしながら、うなずいた。
「おっちょこちょいって……言われて、自分で頑張れるって思ってたから、ショックで」
思ったことを素直に口に出してみて、娟の口が回り出す。
「やっと変われたんだって、自立できたんだって、思ってたんですけど、でもなんか……えっと、本当はそうじゃなくて、結局、支えてもらわないと何にもできてなかったのがわかって……私、これまで頼ってきたから、返そうって思ってたのに、上手く行ってなくて」
「ふむ……」
顎に手を当て、ティエドールは考える間を置いた。
「君はきちんと周囲の手助けをありがたく思っていてその手助けに報いたいと思っている。それは君がおっちょこちょいでなくなってからしかできないのかな?」
「え?」
「私だったら、君のその気持ちだけで十分嬉しい。それは君がおっちょこちょいかどうかは関係がない。もし何か気持ち以外で返したければ、自分がおっちょこちょいなことをしっかり自覚して慎重に動けばいいのではないかな」
「慎重に動いたら、おっちょこちょい直りますか?」
「直るかはわからないが、注意するだけで十分改善はするだろう」
「そうしたら、任務でも、役に立てますか?」
「うん、きっと役に立てるよ。任務で役に立ちたいなら、やっぱり訓練は必要だけどね」
ティエドールがゆっくり確実に頷いてみせたので、娟は失いかけていた自信を少し取り戻せたきがした。
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