cold body/hot heart | ナノ

▽ 聖戦3


「娟、17歳。中国系イギリス人。父親不在、母親、紅花 (ホンファ)。雪女の家系に生まれる。
遺伝子にイノセンスが寄生。水を操る能力、声で相手を魅了する能力を有す。

アルト、16歳。父親、ユアン、母親、紅花 (ホンファ)。父親が村長一家の親戚であることから、村長一家の子供として育つ。遺伝子にイノセンスが寄生。相手の心を読み取り操る能力を有す。
○月×日、リナリー・リーとの任務時、イノセンス制御具を外した娟の声を聴き、AKUMAをイノセンスにより破壊。新しい能力と思しき力を発揮。シンクロ率に変化は見られなかったこと、「娟の声を聴いた瞬間、知らない力がわいた」という本人の証言から、血がつながり、同じく遺伝子にイノセンスが寄生する娟の声から力を得たものと推定される。」

司令室に集められたエクソシスト全員が、静かにリーバーが資料を読む声を聞いていた。リーバーのもつ資料は、コムイが娟見せたものと同じで、複製など一つも作られていない、手書きのものだ。コムイが中央庁から隠したと思っていた、重要な資料であった。
そのことを知るのは、コムイとリーバー、そしてアルトだけであるはずだった。しかしどこからか情報がもれ、中央庁からかぎつけられてしまった。本来ならば報告すべき情報を秘密裏に保持していたため、中央庁から処罰が下らないことをコムイは幸運だと考えるべきなのだろう。
中央庁からリンクのように監査官が訪れ、もう一度娟を連れ去ってもおかしくない状況だったが、今のところそれは行われていない。アルトから聞き取りを行ったのちに調べた内容を中央庁に提出したから、あきらめてくれたのかもしれないとコムイは推測している。

「なあ、思ったんだけど、なんでみんなラストネームねぇの?」

リーバーの読み上げた内容と、事前に娟に何が起こったのかを知らされていたエクソシストたちは、中央庁が何をしようとしていたか薄々と察し始めているようで、沈黙していた。話を進めるために、場の空気を和ませようとラビが全く関係のない部分の質問をする。

「ああ、それは、彼女らがいた村が元からそういう地域でね。」

「へえ、」

ラビのその質問によって、場が質問しやすい空気となり、次々と質問が上がりだす。

「その新しい能力、というのはどんなものですか?」

「近遠距離の相手を何らかの力で押しつぶす、というもので、今のところ発現が一度切りだからその実態はあまりつかめていないところだ。教団に来る以前に、常日頃からアルトは娟の声を聴いていたが、一度もそのようなことはなかったため、おそらく娟の声と感情の大きさに左右されると考えられる。」

「娟の父親がいないって、どういうこと?」

「イノセンスが消えまいとしたからかどうか、定かではないが、雪女は代々、自然と身ごもるらしい。母親と容姿がそっくりの子供が生まれるとか。娟の父親は死んだことにされていたようだ。雪女に凍らされた、とか言われたみたいだな。」

「アルトって、なんで雪女の血も入ってるって知らされてなかったんさ?」

「雪女は代々、忌避の対象として見られていて、昔は特に雪女とかかわりを持つことがご法度だったようだ。その名残で、今も雪女と関わりを持った男性やその子供は事実を隠されてるんだと。」

アルトは本当はみんなに知られたくないという思いがあったからか、自分から質問に答える気はないようだ。たまに、情報が間違っていると遠慮がちに訂正する程度で、それぞれの質問にはほとんどリーバーが答えていた。
いったん質問が収まったら、全員薄々感づいてはいるだろう、中央庁が行おうとしていることについてコムイは話すつもりだった。

それぞれが口々に聞きたいことを聞いていく中、そろり、と無言で手が挙がった。娟である。普段からそれほど主張するということをしない娟が自ら手を挙げたので、周りはしんと静まり返った。

「あの、どうして私は、今回巻き込まれたんでしょう?」

周りはうすうすと気が付き始めていたことをこの子は気が付いていないらしい。コムイは彼女の無防備さ加減を思い知らされる。
そんな彼女に、コムイは丁寧に説明をした。

「イノセンスは一人に対して寄生するのが普通で、しかも寄生した部分は通常人ならざる者に変わるはずなんだ。でも、君の場合は違った。君のお母さんは、一つのイノセンスに寄生されているはずなのに、それを君と、アルト君二人に分けることができた。これはイノセンスが増殖したというとらえ方ができる。つまり、イノセンスを扱える人間が増える。教団にとってはものすごく魅力的な話だったんだ。ただでさえ少ないエクソシストを、増やすことができるのだから。それに、娟君はアルト君の力にいい影響を与えることができる。教団は君をそういう目的に使いたかったということなんだ。」

コムイはできるだけ言葉をオブラートに包めるようにしたかったが、それと同時に事実を伝えたかったので、結局後悔することになった。
娟はコムイの話を聞いて、必死で頭を追いつかせようとしているが、心が付いていかないようで、彼女の隣で、耐えるように話を聞いていたアルトの手をぎゅっと握りしめていた。

「ならなんで、中央庁の奴ら、手ぇださねんだ。」

神田の言葉に、コムイは新たな資料を探した。アルトの話だけでは分からなかった部分を補うために、探索部隊に調べさせた資料だ。

「アルト君の聞き取りが終わった後に、探索部隊に調べさせていた資料なんだけどね、これ。」

取り出した資料は、つい先日探索部隊から提出されたものだ。

「これまでの雪女の家系図。これは、アルト君のように隠されていた図も含まれている。」

コムイは全員が資料をのぞき込もうとするのを制して、自分の言いたいことを言った。

「代々、二人の子供を産んだ雪女は、若くして亡くなっていることが分かった。」

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