※ 紀子さま@冗談、へ貢ぎました!



兄貴はこれやろ? とテーブルに並べられたアイスのカップのなかから先に抜いておれの前に置かれたのはいちご味。

「それ、好きなん?」

向かい合った翔太の隣に頬杖をついた白石から意外そうに尋ねられて、少しばつの悪い思いがする。 甘いものがあまり得意じゃないことはとうに知られているし、いちごって柄じゃないのもじゅうぶん自覚がある。

「バニラも抹茶も、あとほんまはほかの銘柄のいちごも甘すぎて食べられへん。 せやけど、これだけは果肉も入ってて甘さ控えめやし……、うん、好きや」

弱味をさらすようで重たい口からとつとつとつながる弁解に最後までじっと耳をすませて、白石は整った顔をまるで花でも咲かせるようにほころばせた。 ええこと聞いたわ、とよこされた言葉の意図は、そのときはよくわからなかった。


それから、なにかにつけて白石から「それ、好きなん?」と、尋ねられていることに気がついた。 学校から家までの道のりに6軒あるコンビニのうち、立ち寄る店が決まっていることに気づかれたときや、父兄から差し入れられたスポーツドリンクはかならずポカリを選ぶと言い当てられたとき、それから地下鉄のなかでイヤホンを半分こしながら知らず口ずさんだ曲に、白石は同じ問いを重ねた。

嗜好がはっきりしていて、迷わず好きだと言えるものもあれば、言われてはじめて気がつくこともあった。 けれど、思い出す白石はいつもどこか機嫌よさげで、水を差すのがためらわれる素直な笑みを浮かべていたように思う。


「これ、好きなん?」


前髪の上から耳の後ろに白石の手のひらが流れていく。 そのままくすぐるように撫でられるのが心地よくて、溶けるように目を閉じた。 笑みを含んだ声でいつもの問いを向けられて、おれはほとんど無意識のうちに、好き、と答えていた。

つい数分前まで並んで数学の問題集を解いていたのに、おれはすでに素数も数えられなくなっていた。 数学より英語より、そのやさしい手が好きだと言ったら、呆れられてしまうだろうか。

薄く目蓋を持ちあげかけたところに、柔らかい感触が押しあてられる。 睫毛を食むように何度か口づけられて、頬を下りていくキスに合わせてゆっくりと目を開いた。
おれの視界いっぱいに、見ているこっちが赤面しそうな笑みを浮かべた白石のばら色の目もとが広がっていた。

心臓のあたりが、押さえつけられたように痛む。 口にしたことなどなかっけれど、こういう表情も、好きだった。

「白石ってな……、ようおれに『それ、好きなん?』て、訊くよな」

あれ、なんで? と続けようとした言葉は、ぱちぱちとまたたく薄茶色をまえにとうとう音にはならずじまいだった。

「……そうかもしれん」

まさか無自覚か。
困惑と唖然とでぼんやりしているうちに、腰に回された腕に掬われ白石の揃えた足のうえに抱きあげられた。
ほとんど身長は変わらないのに、いつもながらくやしいくらいの安定感。 友達同士がするようにふざけあって、友達同士では絶対にしないいたずらみたいな接触に笑い転げて、やがて身体の内側に小さく火がともる。 白石も同じだと、手のひらの熱が教えていた。

制服越しの胸元に、なつくようにぐりぐりと額が押しつけられて、子どもっぽいしぐさに笑みを堪えきれない。 そうして、くしゃくしゃになりつつある淡い色の髪をまるで母親のような手つきでくしけずると、白石からも吐息混じりの笑い声が届いた。 あまりにも満足感ただようその声色に、気づけばおれは、その質問を口にしていた。

「なあ、もしかして、こうされるの好きなん?」

身体を起こすことなく、前髪のあいだから細めた目もとだけをのぞかせて、白石は頷いた。

「うん、めっちゃ好き」
「…………う、」

なんとなく、その問いを繰り返す理由がわかってしまった、かもしれない。
そうだとしたら、おれは誰かれではなく白石の答えだけがほしいと思うし、おれと同じ理由で白石が尋ねてよこしていたのなら、それは、たぶんとても嬉しい。

好きなやつのことだから知りたくて、好きなやつの好きなものならもっと知りたい。 好きだと語るまなざしをおれにも向けて、そしてどうかおれを。


ス キ ト キ メ キ ト キ ス



「けんや、俺のこと好き?」
「はは、言うと思った」
「ちょ、そこ即答してもらわんと」
「人間、察しと思いやりや」
「もう……、俺、おまえのそういうとこも好きやから困る」
「ありがと、おれも好きやで」
「…………えっ!?」


101001
紀子さまのお誕生日によせて
よりよい一年となりますように
(遅れてごめんなさい大好きです!)

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