※ とりあえずなんか下品です
  中学生以下の閲覧はご遠慮ください


冬休みが明け、試験も終わってしばらくぶりに白石家へ遊びにいくと、身体の半分くらいかんたんに埋まってしまいそうなビーズクッションが、たいそうな存在感でもって部屋の主とその飼い猫の寵愛を受けていた。 お年玉で買ったのだと、聞いてもいないうちから手に入れるまでの道のりと使ってみての快適さを力説される。
それに半身を沈めてくつろぐ白石から小さく手招きされた。 謙也、おいで。 同級生の、体格もあまり変わらない相手にいうせりふじゃないと思う。 けれど白石の部屋も他人の目を気にしなくていい時間も久しぶりのおれにしてみれば、それはあまりにも魅力的な誘惑だった。
吸い寄せられるように白石の脚のあいだにしゃがみこむ。 そのまま背中を預けると、両腕が待ちかねたように身体の前に回された。 襟足のあたりに鼻先をうずめて深呼吸をされて、身を捩ってもびくともしない。 首筋を撫でる他人の呼気にちょっと鳥肌がたってしまった。 身体の接しているところからさざめきのように笑う気配が伝わってきて妙に気恥ずかしい。

「充電さして」

視界の下で組まれた指がきゅって締まるのを見て、おれの胸も同じ音をたてる。 なにを、なんて訊けない。 訊かなくてもおれが差しだせるものならなに一つ惜しまないくらいには、すっかり白石のものだった。 編まれた指先のうえに手のひらを重ねて、いたわる気持ちがすこしでも伝わればいいと思いながら包みこむ。




毛足が長くて触り心地のいい濃いブラウンのラグに、湯からあげたばかりの白玉みたいな色をした大きくて丸いクッションの図は、白石がいうように中学生の部屋としてはいささか過ぎるほど落ち着いた雰囲気づくりに役立っているけれど、一つ下の後輩が心から愛する食べ物を彷彿とさせる色使いのおかげで、まあどちらかというと美味しそうだ。 といったら白石は泣いてしまうだろうか。

ベッドのうえから見えるところに物のすくない部屋を眺めてぼんやりする。 一度、これ以上ないほど乱された呼吸がまだ整っていなかった。 上下する肩から腕へと包帯の感触のない左の手のひらに撫でおろされる。 それは手の甲まで辿りつくと、重ねるように指と指を隙間なく絡めてきた。
腕の角度を変えたくて身じろぐ。 とたん、まだなかにいる白石と内側の粘膜が擦れ、思わずあげそうになる声を噛みしめてしばらく固まることになる。 やがてその中途半端な姿勢が苦しくなって、静まりかけの息をふたたび荒くしながらなんとか白石にもたれて落ち着く体勢になった。 気づかうように首のしたに腕を差し入れられる。 頭の位置が高くなっていっそう楽になった。

「白石の充電がこんなハードとは思わなんだ」
「すまん、堪え性なくて無理さしてもた」
「……まあ、たまになら悪くないっちゅう感じ」

顔を見ながらはとうていいえない強がりを、白石は背後で小さく笑ったようだった。 そんなに切迫して、貪るように行為になだれ込まなければいけないほどすり切れるまで我慢しなくてもいいのに、と思いはする。 ちょっとしんどいと思ったときに、おいでって、その声でその手で呼んでくれたならなにをおいても走って行くと決めているのだ。 だけどおれたちは、たがいにたいしてまだ格好つけたいところがあって、ちょっとしんどいくらいじゃ甘えたり、それを甘やかすことを上手くできずにいる。

「ありがとう、謙也」

聞こえたはずもないけれど、耳もとの髪を揺らしていつもよりゆっくりとそそがれた言葉に、体温に、存在に愛しさがつのる。 白石が不安定になると耳につく、ごめん、だとかすまんという言葉がありがとうに入れ替わればそろそろ大丈夫なはずだ。 それが分かるくらいにはそばにいたし、大切なのだ。 だからほんとうなら、できればもっとおれから気づいてなにか与えられる存在になりたかった。




「謙也どないしよ……俺、元気になっちゃった」

っていう、ひとの真摯なモノローグを破るのもやっぱりその声。 しばらく静かにしていたから眠っているのかと思えば唐突にこれだ。 いまのやりとりのどこに性的興奮を呼び起こすポイントがあったのかさっぱり分からないまま、なかに埋められた白石がたしかに元気になっちゃったことだけはしっかり分かった。

「ちょ、ほんっ、ムードクラッシャーも、たいがいにせ、よ」
「うん、ありがとう」

ゆるやかに再開された摩擦が徐々に激しくなる。
別々の体温が、一番近いところから溶けだして境界を失ってしまうような感覚。 繋がったまま、身体を向き合うようにされるのがたまらなくて喘ぐ。 一瞬痛くて、でも声はほとんど快感を訴えていた。 白石がなにかいって、おれは理解するより先に頷いた。 額に浮かぶ水滴を指の腹で拭ってやると妙に嬉しそうな顔をするのがかわいい。 そこからは苦しいくらいずっと気持ちいいままだった。
たぶん、おれにも白石を補う必要があったのだ。



足りなかったらしい




自分、ほとんど充電完了しとるやろ。 と思いながら、足もとがおぼつかないせいでいっしょに入った浴室でもう一度、ほとんど流されかけていたところで脱衣所の引き戸が開く音がして、おれたちは二人分の血の引く音を聞いた。
謙也くんもおるん、と磨りガラス越しに尋ねる友香里ちゃんへと、一瞬にして賢者タイムに突入した冷静さで繰り出す言い訳の隙の無さといったらあとにもさきにもこれ以上のものはないだろうと思う。

それから、一週間煮込んだのだというタンシチューの晩ごはんにお呼ばれして、正直致した直後に相手のご家族と顔を合わせる気まずさで喉を通りそうもない、と思っていたら意外とそうでもなかった。 おれの神経の図太さの問題というよりシチューが次元を超越する美味さだったせいだ。
だからむしろ、「クーちゃんずっと調子悪そうやったのに、謙也くんが来てくれたらすぐ治った」と友香里ちゃんと美しすぎる白石夫人が無邪気に笑いあう隣で、ほかほかの頬が緩みっぱなしの白石に安心していいのかうっかりボロを出さないかハラハラするあまり二回しかおかわりできなかったのが非常に悔やまれる。


120207


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