※ 大学生の蔵謙


「今日は帰るんやろ。 駅まで送ってく」
努めて困ったような声色をつくり、思ってもいないことを さもおまえのためだと言ってのけてみたりする。 ベッドでくつろぐ謙也は、角のコンビニで買ってきたジャンプからちらりとこちらに視線を流して「ん、」と、否とも応ともとれない相づちを打った。 そうして、やたらと文字の多い漫画に戻る眼差しに俺はこっそり安心してしまう。 いけないと思う気持ちはある。 いちおう。

だって、きっとよくない、こんなの。
謙也を、もう二週間も自分の部屋に帰していなかった。 いっしょに目覚めて、二人で朝食をつくって食べて片付けて、時間割の似た日は同じ電車で大学に行って授業は別々に受けるけれど、そのあと結局サークルで合流して、俺の部屋の最寄りで謙也と降りてしまえば夕食の買い物なんか当たり前に二人分で、翌朝の朝食の献立を考えながらまたおれの部屋に帰ってくる。
なんだかとてもただれている。 と思う。 でも、中学高校時代には、どんなに望んでもごく限られたものでしかなった二人きりの時間は、途方もなく幸せでとにかく手放しがたいものだった。 そして、それは俺ばかりのことではないらしいのがなおさらに。

荷物をとりに寄るだけ、といったその口が 俺の部屋の扉をくぐると、驚くほどの自然さで「ただいま」という。
押し寄せる感情の渦のなか、とりあえず背後から捕らえた身体はうちのボディシャンプーの匂いがした。 謙也が買ってきては部屋にたまるジャンプにつまずいたふりをして、そのままベッドにもつれ込んだ。 これで うちに帰れ、といったところで説得力などあるはずもない。

俺の葛藤なんてどこ吹く風の謙也は、いつのまにか閉じた雑誌に頬をよせて眠っていた。 晩秋の外はもう暗い。 きっと今日も謙也はうちにお泊りになるだろう。 上掛けを肩まで引きあげて、やわいくせっ毛を指で梳くと、うすいくちびるの両端がわずかにもちあがる。 心を許した寝顔に、何度思ったか知れない言葉が口をついた。

「……もう住んだらええやん」

広い住まいではないけれど、月の半分は二人で暮らしているようなものだ。 はじめてそれを提案したとき、学生の身分でそんなどどど同棲みたいな、と渋ったのは謙也だけれど、なんとなく、いまもう一度誘えばうなずいてくれるような気がしている。
思い切って、今日この子をうちの子にしてしまおう。



いっしょに暮らそう 


111109


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