キスをするとソーダの甘い味がした。
ついさっきまで食べていた青いアイスのものだろう。 それなのに、絡めた謙也の舌や粘膜は驚くほどに熱い。 くちびるを離すと、苦しげに乱れた呼吸すら熱を帯びていた。
この身体を、くまなく舌で舐めて溶かして食べてしまいたい。そうしたら謙也は俺の一部になって、俺が俺を愛するように、謙也を愛することができるのに。 なんて、埒もない。
まろい頬を舐めあげるとすこし塩からかった。 腕のなかの身体が震えて、俺のユニフォームをつかむ指先に弱々しく力がこもる。 力の抜けた膝のあいだに片脚を割りこませて身体を支えてやると、目のまえに無防備にさらされた喉元にもくちびるを這わせた。

「どうしてほしいか、言うて」

そっと持ちあげられた目蓋の下から、濡れた眼差しが精一杯 睨んでくる。 すこし意地の悪い訊きかたをしたとは思う。
謙也は意思表示をないがしろにしない。 したいと思えばその気持ちを言葉にすることをためらわないし、言葉にできないときには全身で「察しろ」と訴えてくる。 どちらにしても 謙也をこの世界に存在せしめたご両親に感謝してもし足りないくらい愛おしいし、いまこの瞬間だって、その気持ちにひとかけらだって嘘はない。
それならなぜ、と問われたところで返す言葉など見つかる気もしなかった。

そうして不意に、謙也の視線から鋭さが失われた。 困ったように目をしばたかせて、汗で湿った指が目もとに触れる。 反射的に目を閉じると目蓋からまつ毛を撫でおろされた。 指先の感触はないのに、まつ毛が揺れるあたりは体温を感じる。 きっと子どもみたいに無心に見つめてくれているんだろう視線も。

「……なんか、そういうこと訊くのめずらしいな」
「いやになった?」

指の先が、頬の曲線をおとがいに向かって静かにおりていく。 自由になった目蓋をあげて、下くちびるに触れていた親指を口に含んだ。 爪と皮膚の境目を丁寧になぞって、さかむけの小さな違和感を舌の先で何度も探る。 ビタミンが不足してるんやで、なんて思っても言葉にできる状況ではないけれども。

「よういうわ」
「っ、ん」

ぐ、と舌を親指で押さえつけられた。
残りの指と手のひらで顔を上向かされる。 熱をはらんだ謙也の視線に射抜かれて動くことができない。

「おれが選んだんやで」

おまえのことも、こうなることも。
息ができない。 俺が運命と思うひとは、自分の運命の手綱を自分で握っていた。 その手で、俺の運命のひとでいることを選んだのだと。 そんなとんでもないことをいう。 ひどく胸が苦しいのは、息の仕方を忘れてしまったせいだ。
せやから、と謙也は口を継いだ。

「好きにしてや、白石」

ああ、もうほんとうに敵わない。
俺はこの気持ちいいくらいの敗北感に連れ添われて、謙也と生きていく。 俺の一部になんてなってくれなくていい。 俺は謙也だけが欲しい。



きみしか欲しくない 


110815


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