※ ぬるいけれど品のない仕上がり
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謙也の身体のなかで、俺を受け入れることのできる場所はとても小さくてせまい。 身体を重ねるたびに(といえるほど行為そのものはまだ俺たちに馴染んでいないけれど)、はじめてひらいたときと同じくらいの時間をかけて、壊さないようにそっと、そこに俺の居場所ができていく。

白石、も、ええから。

たしかに焦がれるほど根気のいる時間ではある。 少しばかり気短な俺の想い人は、こんなとき、ことさら大切にあつかわれることをあまり良しとしない。 指で慣らすあいだなんてこの世のどこにも身の置きどころがないような顔で、目を合わせてくれることはほとんどなかった。 手で口をふさぎ身体を縮こまらせて、その時間が過ぎるのをじっと待っている様子はまるで、叱られた子どもが許されるのを待っているようだ。 まあ、もしもほんとうに謙也が小さな子どものなりをしていたらその姿にこんなにも欲を煽られたりはしないと思うけれど、絶対に欲情しないかと言われればたぶんノーと答えざるを得ないくらいには、目の前の身体ごと忍足謙也という人間に溺れている自覚がある。

もう少し、あとちょっと待ってな。

早く。 はやく欲しい。 理性の針はとっくに振り切れて止まっている。 それでも、俺を受け入れても謙也が傷つかないと確信したかった。 本能を剥き出しにされる時間に、その本能でもって謙也を大切にすることを望める自分自身がわりと誇らしいと思っている、反面、謙也にしてみたらいたたまれないしじれったいしでたまったものじゃないという。 いつだって、独りよがりでなく、いつくしみを体現するのは難しい。

不意に、身体の奥に忍ばせた指が核心に触れた。 手で覆われた呼吸が困惑と焦燥で大きく揺れる。 こちらに向いている手のひらに口づけると薄い茶色がようやく俺を映して、それからはにかむように目元を染めた。 シーツのうえでくしゃくしゃになった淡い色の髪が頷きに合わせて乾いた音をたてる。 謙也は、急かすことはあっても決して嫌だとかやめろといった言葉を口にしなかった。 意地も多分にあるのだろうけれど、身体に埋めていた指を抜いて覆いかぶされば緊張をといて素直に腕を回してくれるから、もしかしてふだん見積っているより俺はけっこう愛されているのかもしれないと思ったりもする。

日差しのもとではしなやかに地を蹴る長い脚を、俺の下では膝が身体に接してしまうくらい曲げて広げさせて、深く、深く沈む。 震える肩をなだめ、わななくくちびるを舌でなぞって、そうして途方もない時間のあとに、詰めていた二人分の深い吐息が重なってひとつになった。
愛しいと身体が叫んで、謙也を強く抱きしめた。 まるでずっと願っていた場所に帰れたような、自分でも驚くくらい満たされた気持ちが胸をふさぐ。 エクスタシーや、と正確な用法を守って口にしたのに謙也にはただちに抜け、といわれた。 いやや、ほんまのことやもん。 かわええからその顔でもんとかいうな、で謙也が笑っておしまい。 かわいいは一言余計だけど、いつものやりとりだった。
どうかしてしまいそうなくらい幸せで、どうしようもなく。

「好き、めっちゃすき、謙也大好き」

身のうちをひたす熱が行き場を失って、とうとう言葉になって溢れはじめた。 言っても言っても足りない。 どんなに心を傾けても、想いをそのまま差し出せるような言葉は見つからなかった。 だからもどかしい思いでさらに言い募る。 こうなってしまうと、自分ではどうしようもなかった。 当の謙也でさえ、顔を真っ赤にして聞くしかない。

やがて、力の入らない腕を持ちあげて、かすかに震える指先が口を塞ぎにきた。
あふれてパンクする。 そういってそっと閉じた目蓋から雫があふれた。 もうそれだけで達してしまいそうになる。 ぴたりと合わさった肌と、くちびるに触れる指先が熱い。 腰に絡んできた脚も触れたところから溶けだしてしまいそうな熱をはらんでいた。

「ん、ぁ、ぁ、らいし……、しら、し、」

はじめはゆっくりと、体温をさぐるように始めた動きを少しずつ早めていく。 無防備な喘ぎが遮るもののない薄いくちびるをついて出た。 いつもより少し高いそれは、とろけるように甘く響いて、一度声になると止まらないようだった。 ゆらゆらと揺れる薄茶色の眼が絶えず俺を追って、名前を呼び返すとまぶしげに細められた。 どうかそんな顔を他の誰にも見せないでほしい。 我ながら重いと思うけれど、返ってくるのは、猫の眼差しでつむがれる「おまえが許してくれるなら、おれははなからそのつもり」だ。 いつの間にそんな覚悟を俺に捧げる気になったのか、この状況でなかったら問い詰めていた。 敵わない。 一生かけても敵う気がしない。

小刻みな頼りない音の合間、ふ、と俺のくちびるを押さえていた指が堪え切れずに滑り落ちた。 膝裏を支えていた手でなにげなくそれを受けとめて、息を呑む。
掬うようにかかげた骨っぽい指の背には、くっきりと歯型がついていた。 痛いもつらいも、その口から一度だって聞いたことはない。

「あっ、ちゃう、から! 我慢、とか」
「してへんの?」

困ったように眉根が寄った。
してへん。 小さな声がすぐに否定する。 それから、変になるから、と続く。

「いや、とか、そういうんやなくて、自分でもわけわからんなるやん。 いまも、アホみたいな声も止まらんくなるし、せやから」
我慢じゃ、ないです。

なんで敬語なん、とかいつものツッコミはあいかわらず喉の奥に引っかかったまま出てこない。 もしかしなくても俺は相当愛されているんじゃないか、なんて。 なんてアホなことを考えたんだろう。 俺は、こんなにも。
ゆっくりと身体を起こした謙也と額が触れた。 つないでいない方の手で抱き寄せる。 そのまま鼻筋をすり合わせるようにくちびるを重ねた。 ほとんど距離のないところで、謙也は息をするように心を差し出してくれる。

やって、おれはおまえのこと好きやんか。

たぶん表情を繕えなくなっている顔を隠したくて、丁寧に持ちあげた手指の歯型に舌先を伸ばした。 くすぐったげに身じろぐ胸元にもぐりこむ。 おうとつをなぞって、何本目かの指にはくちびるを落とした。 俺が誓いを贈るまで、この指が俺のキスしか知りませんように。
声にしたわけではなかったけれど、キザやなあと呆れたように謙也は言って、それから、まあそれもええか、と静かに笑った。



ちかう薬指 


110609


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