時間がほしい。 おれは言った。
誕生日に、おれがおまえと同い年になる瞬間にどうかそばにいてほしい。

付き合いはじめて最初の誕生日を迎える少し前、プレゼントを悩みすぎてハゲそうになった白石からほしいものを尋ねられた。 おれを思って、あの白石が夜も眠れないくらいあれこれ考えてくれたことだけでも十分嬉しかったけれど、おれにはそれを正確に伝えられるだけの語彙も恋愛経験値も不足していた。

いたらない言葉に、きれいな顔を切なげにゆがめてうつむく姿にいよいよ動揺して、とりあえず叫んだのが冒頭の台詞。 ムード? それ食える?

ほとんど脊髄反射的に飛び出した希望が、よくよく考えるととても正直な本音だったことに自分が一番驚いた。 侑士が好んで観る映画でももうお目にかかれないようベタな誘い文句。
ロマンチストは血筋か、微妙にへこむ。

込みあげる恥ずかしさは、白石からの反応がないことでさらにいたたまれなさを伴って重くのしかかる。 うつむいたところには路面に張りつけられたように微動だにしないローファーの爪先がある。
それでも、誕生日でもなければ口にできない望みを、できることなら撤回せずにいたくてくちびるを引き結んだ。

謙也はそれでええの。

抑制のきいた声。
耳に心地のいい、凛とした響きに念を押されて頷いた。

それがええ。

いちおう言い直した意図が伝わりますようにと祈りながら。



Special gift is You!



白石のベッドヘッドに置かれた目覚まし時計がまさかの電波時計だとか、できすぎだ。 アナログのほうが雰囲気でるんやろうけど、と苦笑する持ち主のとなりにうつ伏せて秒数まで表示されるデジタルのディスプレイを眺める。

平日だし親もいるしというから手加減でもするのかと思いきや、つむじから足の先までキスで塗り重ねるように、ことさら丁寧に抱かれたせいでもう眠い。 自分から言い出したこととはいえ、甘い水に浮かべられたような空気もいたたまれない。
うとうとしながら、それでもおれは一秒の狂いもなく白石と同じ歳になった。

誕生日おめでとう。
生まれてきてくれてありがとう。

肩を引き寄せられた。 おぼつかない身体は白石のなすがまま、枕カバーに広がる淡い色の髪の両側に肘をつく。 整った顔を近くで見下ろした。 コートにいるときに見せる真っ直ぐに射ぬくような表情と正面から目を合わせると、眼差しには少し不釣り合いにかすれたささやきが耳朶をくすぐる。

祝いの言葉に返すはずの礼まで言われてしまった。 からかいもまぜっかえしの軽口も、肺の奥から出てこない。 胸が苦しい。 息ができない。 瞬きしても瞬きしても、白石の顔がにじむ。

白石はぼやけてもかっこええな。

きっと、言うべきことはほかにいくらでもあったはずだ。 それでも鼻声のつぶやきを、言えない心のうちさえ汲み取ってしまった白石は、形のいい眉をハの字にして困ったようにほほ笑んだ。 両目のふちを乾いた親指になぞられる。

謙也はべそかいてもかわええ。

かわいいわけがない。
その形容詞は、うちのスピーディーちゃんや白石家のエクスタとか、人間なら友香里ちゃんみたいな子にこそ捧げられてしかるべきだと思う。 けれど、言われたおれがムッとするのを承知のうえで、白石はかわいいと口にする。 困ったことに、それに限っては嬉しくないのが嘘になるのがたいそう遺憾である。

プレゼントを一生懸命考えてくれたことも、わがままを叶えてくれたことも、ぬくもりがとなりにあることすべてが嬉しい。 わずかなあいだに、それはほかの誰かではだめになっていた。
たとえ限られた時間だとしても、この腕をおれだけに与えてくれたことには、一生分の誕生日を合わせたってきっと敵わない。


110317


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