BIOHAZARD〜OUTBREAK〜
Ending.David

「おい、起きろ」

低いがよく通る声で目を覚ましたシンディは、起き上がった後もしばらく現状を理解できずにいた。

目に映るのは水滴が落ちて来る太いパイプと、所々湿ったコンクリート。

「ここは……っ」

立ち上がろうとして右足に激痛が走り、シンディはそのまま崩れ落ちるように座り込んだ。

見ると、右足の外側…第5中足骨の辺りから足首に掛けて赤紫色に腫れ上がっていた。

打身かそれとも骨が折れているのか、足の半分だけが異様に熱い。

その痛みでようやくシンディは怪物に襲われて通路から落下した事を思い出した。

無事とは言えないまでも、生きていただけ幸運というものだ。

シンディはもう一度辺りを見回してから天井付近を観察しているデビットに視線を移した。

ケビン達の姿は見えないが、それならどうしてデビットがここにいるのだろうか。

自分と同じようにあの怪物の攻撃を受けて落下したのだろうか。

しかしそれにしては特に目立った傷もない。

他人に弱みを見せない彼だとしても、あの高さから落下して無傷でいられるとは到底思えない。

だとすると、デビットはどこか別の場所からここに回り込んで来たのか…。

それとも、自分から飛び降りて着地したのか…。

……私を助ける為に?

「…何考えてるんだろう。馬鹿ね」

自惚れを振り払うように首を振って、シンディは壁に手をつきながらどうにか立ち上がった。

たったそれだけで気力も何もかも削げ落ちそうになるが、今こうしている間にも刻々とタイムリミットは迫っている。

自分の力を信じるしかない。

「デビット、ここは地下なの?」

「…下水道だ。だが扉はカードキーでロックされている」

「そう…別の道を探すしかないわね。ケビン達も無事だといいけど…」

「……歩けるのか?」

デビットの問いにシンディは額に浮かんだ冷や汗を吹きながら頷いた。

「大丈夫よ。…もう時間がないわ。急ぎましょう」

「……」

二人は薄暗い下水道を歩き始めた。

ぽつぽつと明かりは灯っているものの、遠くは闇に包まれそれがさらに不安を煽る。

だが研究所に戻れない以上、先が見えなくとも進むしかないのだ。

気を失っていたのはほんの僅かな間のようだが、夜が明ける前にこの街から脱出しなくては助からない。

「っ……」

シンディは歯を食いしばりながら一歩、また一歩と歩を進めた。

やがて辿り着いたのは見覚えのある施設だった。

「ここって…」

「……」

数時間前に化け物達に追い回された大学の下水処理施設。

ハンターと呼ばれる化け物の姿は見えないが、またここに戻って来る事になるとは…。

「向こうにハシゴがある。地上に出られるかもしれん」

「行ってみましょう…」

だんだんと増してくる痛みに耐えながらシンディはハシゴに歩み寄り手を掛けた。

デビットの手を借りながらハシゴを上りきると、そこは桟橋近くの階段だった。

しかも空にはヘリコプターが飛んでいる。

そのヘリの中から誰かが拡声器を使って叫んでいる。

『誰かいるのかー!もし誰かいたら、この先の正面広場へ!!!』

風のせいで少し聞き取りにくかったが、その声は確かに二人の耳にも届いていた。

「デビット!」

「…行くぞ!」

地獄の中で見つけた唯一の光。

その一筋の光を辿るように二人は大学の正面広場へと向かった。

裏広場から搬出路に向かい、そこから正面広場へと回り込む。

赤く腫れ上がった足はとうに限界を迎えていたが、シンディは自分の力を信じて突き進んだ。

この光を見失えば、もう自分達は助からないだろう。

これが最後の希望なのだ。

はぐれてしまったケビン達の事は気になるが、彼らは絶対に生きている。

彼らの力を信じている。だから…

「っ…諦めないわ」

最後の力を振り絞って階段を上がり正面広場に辿り着くと、そこは惨劇の跡が色濃く残っていた。

どうやらここで何かと争ったらしく、横倒しになった車の周囲にはアンブレラの隊員達が無残な姿で転がっている。

「ヘリはどこ…」

額を流れる汗を拭う余裕すらないまま空を見上げたシンディは、突然デビットに腕を引かれて車の運転席に頭から突っ込んだ。

何が起きたのか理解する間もなく、地面が揺れて、デビットが素早く遺体が持っていたアサルトライフルを手にした。

「!」

崩れた校舎を背にするように、あの怪物が立っていた。

大学の爆発に巻き込まれて死んだのかと思っていたが、どうやらかなりのダメージは受けたものの致命傷には至らなかったようだ。

肩に突き刺さった破片をいとも容易く引き抜いて、その怪物は咆哮を上げた。

デビットは突然の怪物の出現にも動ずる事無く臨戦態勢に入るが、重傷を負った怪物はそれでも弾丸を弾くだけの強度を誇っていた。

「デビット!」

シンディは苦戦するデビットを見てとっさに辺りを見回し、地面に転がったライフルに手を伸ばした。

「うっ……」

しかし少し身を乗り出した所で足に激痛が走り、シンディは思わず手を引いた。

ずっと無理に歩いてきたせいか、足の腫れは一層酷くなり痛みも尋常ではなくなっている。

今の状態ではまともに銃を撃つことはおろか、怪物の攻撃を避ける事さえできない。

「何か他に役に立ちそうな物は…っ」

這いずるように横倒しになった車の荷台へ回り中を調べると、何かの機材や弾薬の詰まったケースなどがあった。

別のケースには手榴弾も入っている。

しかしあの大規模な爆発に巻き込まれても生きている怪物に、手榴弾程度の爆発が効くとは思えない。

「他に何か…何かないの!」

注意深く荷を調べてみると、あるケースの中に奇妙な拳銃らしき物が入っていた。

見た目は白い拳銃のようだが、銃口の丁度反対側…普通なら撃鉄がある場所に蓋があり、それを開けると中に注射器のような物がセットされていた。

銃身にアンブレラのマークがついている所を見ると、おそらくこれもアンブレラ社が開発した物なのだろう。

何かの薬品をセットする事で、銃弾の代わりに注射器を発射する仕組みになっているのだろうか?

そこまで考えてシンディはふとケビンが命懸けで入手したデイライトを思い出した。

シンディ達が地下で見つけたPベースの密閉容器とは違い、デイライトの容器はそのまま注射器にセットできるようになっていた。

デイライトはTウィルスに対抗できる唯一の希望の光。

あの薬を怪物に撃ち込めばあるいは…。

しかしケビンが入手したデイライトはジョージの指示で全員に投与され、デイライトの生成装置も爆発によって大学もろとも木端微塵に打ち砕かれてしまった。

ジョージがリンダに渡したのはデイライトの生成方法を記した手帳であり、幾らリンダがその材料となるTウィルスのサンプルを持っていたとしても、薬が完成するまでかなりの時間を要するだろう。

無事にこの街から脱出して必要な機材や資料を集めて、膨大な時間を研究に費やさなくては完成しない。

その頃には、もうこの街はミサイルによって消滅しているだろう。

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