「うっ…」 頬に触れた冷たい雫で意識を取り戻したシンディは、何度か瞬きを繰り返してからゆっくりと体を起こした。 どうやらここは地下の廃棄処理室か下水道のようだが、ずいぶん深く落ちてしまったらしい。 体中が軋むように痛むが、思った程の激痛はない。 不思議に思いながら辺りを見回した時、自分の下敷きになっているケビンに気づいて、シンディは慌てて立ち上がった。 「ケビン!」 「っ………さすがに効いたぜ。ったく散々な一日だ。おいシンディ、大丈夫か?」 「わ、私は大丈夫。それよりケビンの方が…」 ケビンは起き上がって辺りを見回すが、左腕に走った激痛で顔を歪めた。 「クソッ……やっちまったか」 「え?まさか…骨が…?」 「っ…まあ、なんとかなるだろ」 他人事のようにそう言ってケビンは立ち上がった。 「待って、ケビン。動くと腕が…っ」 「心配すんなって。どうってことねぇ。それよりあのバケモノはどこ行った?」 「わからないわ…。でもここにはいないみたい」 「そうか…。ジョージ達も無事だといいんだが…」 「……」 不安が募るが、今は仲間を信じるしかない。 シンディはもう一度辺りを見回して耳を澄ませた。 聞こえて来るのは僅かな風の音と水が流れる音だけ。 気を失っている間にタイラントに見つからなかったのは不幸中の幸いかもしれない。 「とにかく上に戻らないとな。行くぞ、シンディ」 「ええ…」 しばらく薄暗い下水道を進んで行くと、廃棄物の近くに倒れているリンダの姿があった。 駆け寄って確かめてみるが、リンダも気を失っているだけで目立った外傷はない。 しばらくして意識を取り戻した彼女は、落下の衝撃で割れてしまったカプセルを見て絶望に包まれた。 「カプセルが……これが最後の希望だったのに…っ」 落ち込む彼女に掛ける言葉が見つからずにシンディが戸惑っていると、ケビンがすっと何かをリンダに差し出した。 「まだ諦めるには早いぜ」 「え…?これは……まさかこれが"デイライト"なの!?」 ケビンはにっと笑ってデイライトをリンダに渡した。 ケビンが大学から命懸けで持ち出したデイライトは、既に感染していたケビンだけでなく、これ以上の感染を防ぐ為にジョージの指示でシンディ達全員に投与された。 ケースに入っていたデイライトはそれで全部なくなってしまったはずだが…。 「他にもあったなんて…」 「言っただろ?"予備"を作ってたら遅くなっちまったって。こんな状況だからな。一本くらい予備がねぇとな」 そう言ってケビンはからからと笑うが、リンダはデイライトを見て静かに頷いた。 「ありがとう。本当に感謝するわ」 「礼はまだ早いぜ。そいつが希望となるか絶望となるかは俺達次第だ」 「そうね……そう、無事にこの街から出て真実を明らかにしないと」 「行きましょう、リンダ。皆で希望の朝を迎えるのよ」 「ええ!」 力強く頷いてリンダは立ち上がった。 ところがそこでけたたましいブザーの音が鳴り響いた。 「何の音?」 壁に取り付けられた監視カメラの上部にあるランプが赤く点滅し、湿った地面を夕日のようにぼんやりと照らしている。 「おいおい、今度は何だ?何かわからねぇがヤバそうな雰囲気だ」 「これは…まさか自爆システムが作動したんじゃ…」 「自爆システム?」 「非常事態が発生した場合に備えて、研究所には自爆システムが設定されているの。研究所内、もしくはアンブレラ支部か本社にあるコンピューターで自爆システムを作動させて、外部に漏れてはならない情報やウィルスを消滅させるのよ」 「そ、それじゃ…」 「ええ。早く脱出しないと…!」 「クソッ、急げ!」 パニック状態のまま走り出した3人だったが、そこでシンディがある音に気づいた。 「ねえ!何か音がしない!?」 「ヤバい音ならさっきからずっと鳴りまくってるぜ!」 「違うわ!そうじゃなくて、何か……滝のようにごうって迫って来るような大きな音が…っ」 シンディの言葉に走りながら後ろを振り返ったリンダは一瞬にして血の気が引いた。 「水よ!!」 「!」 振り返ったシンディとケビンの目に映ったのは、巨大な龍のようにうねりながら迫って来る大量の水だった。 no 次へ |