BIOHAZARD〜OUTBREAK〜
死守-desperate times-

二階の美術室を訪れると、そこにルイスという一人の警官とここに避難して来た市民達の姿があった。

生存者の中には幼い子供達と身を寄せ合う母親もいる。

「ケビン!お前、生きてたなら連絡くらいしろよ!」

「まあこっちも色々とあってな。それよりマービンから聞いたが結構ヤバイ状況らしいな」

ルイスは新しいタバコに火をつけながら苦い顔を浮かべた。

「もう生き残ってんのは俺達だけだ。サラとジョッシュもやられて、ブレッドの奴も数時間前から連絡が取れない」

「あいつらもか…。ブレッドは下のオフィスにいたぜ。もう手遅れだったけどな…」

「そうか…。あの悪運の強い奴も今回ばかりは手に負えなかったか」

ケビンは部屋の中を見回してからもう一度ルイスに向き直った。

「生存者はこれだけか?」

「ああ。ジョッシュが図書室に避難させた生存者達は全滅してた。…生存者の一人がゾンビ化してパニックになったんだ。それを止めようとしたジョッシュとサラも死んだ」

「…やりきれねぇな。早いとこ脱出ルートを見つけてこの地獄からおさらばしたいぜ」

「同感だな。俺はここを離れる訳にはいかない。脱出ルートの確保はお前に任せたぜ、ケビン」

「わかった。しっかり守れよ」

「言われるまでもねぇ。…ああ、それと、もしかしたらまだ地下の留置場に取り残された奴がいるかもしれねぇ。悪いが様子を見に行ってくれないか?」

「ああ。じゃあ、また後でな」

ルイスと別れ地下の留置場へと向かった3人は、そこでアリッサと出会った。

一階の西側を見回った後、アリッサ達は地下を訪れ、そこで二手に別れたらしい。

留置場の奥には牢の中に取り残された男性がいた。

彼はアリッサに気づくと、少し驚いたように目を見開いた。

「あんた…アリッサだな?よく知ってるぜ。あの動物園のスクープ、俺を出し抜くとはたいしたもんだ」

「私も知ってるわ。あなた、ベン・ベルトリッチね。何をやらかしたのか知らないけど、ここから出たいのなら協力してもらうわよ」

「はは、俺相手に駆け引きか?まあここにいるのも飽きたし、脱出するアテがあるなら協力してもいいぜ」

そこでアリッサが事情を話すと、ベンは少し考えた後、あることを提案した。

「ファイル?」

「ああ。せっかくつかんだネタだが、どうやら落としちまったらしい。それを持って来てくれりゃ、いいコトを教えてやるぜ」

するとシンディがある事を思い出してジョージに声を掛けた。

「そう言えば、ジョージ、宿直室で分厚いファイルを拾ったわよね?」

「ああ、これか」

ジョージが鞄から青いファイルを取り出すと、牢の中にいるベンの目の色が変わった。

「おい…そいつは!頼む、こっちに渡してくれ!」

ジョージが牢の隙間からファイルを渡すと、ベンは中身を確かめてほっと息をついた。

「戻ってよかったよ。こんな状況だから半ば諦めてたんだが…」

「それで?情報って言うのは?」

「ん?ああ…。この警察署が昔美術館だったって事は知ってるか?」

「あー、そういやそんな話を聞いたことがあるな」

ケビンが答えるとベンはファイルの中から古い見取り図を取り出して広げた。

「これはこの警察署が改築される前の見取り図だ。この女神像があるホールには、ある仕掛けが施されているんだ」

「仕掛け?」

「女神像の前の台座に宝石が埋め込まれた6つのプレートをはめ込むと、その仕掛けが動き出す。どうも美術館を建てた富豪が海外にある面白い仕掛けを気に入って、建物のあちこちにそういう仕掛けを施したらしい。その内の一つがあの女神像って訳だ。その像を動かすと、換気用のトンネルがある」

「トンネル?それじゃそこを通れば外に出られるの?」

「この見取り図が正しければな。だがあくまでも換気用のトンネルだ。通れる人間は限られてる」

「つまり救援を呼びに行くって訳ね?」

「そういう事だ」

シンディ達はお互いの顔を見合わせた後、他に方法はないと判断して頷いた。

「よし、そんじゃあそのプレートとやらを探しに行こうぜ」

「確かに今はそのトンネルだけがここから脱出できる唯一の希望だな」

「決まりね。私はジム達にこの事を知らせて来るわ」

アリッサが去った後、ベンは大事なファイルを背中に隠すと、持っていた鍵で牢の扉を開け外に出た。

「お前、鍵持ってたのか?」

「数時間前にここに来た警官が持ってたんだよ。まあその警官は奴らの仲間入りしちまったけどな。…とにかく、ここから出ると決めた以上もう後戻りはできねぇんだ。よろしく頼むぜ」

そう言ってベンは一枚のプレートをケビンに差し出した。

「これが例のプレートか?」

「ここに捕まってた奴が持ってたんだ。宝石狙いで盗んだんだろうけど、まあそんな事はどうだっていい」

「そうね。今は考えてる場合じゃないわ。先を急ぎましょう」

ベンも加わり、4人になったシンディ達はひとまずマービンのいるホールへ戻ることにした。

通信手段を復活させようと奮闘しているマービンとリタに事情を話した後、女神像の台座にプレートをはめ込むと内部で何かが外れるような音がした。

「ベンの言う通り、やはりこの女神像には何か仕掛けがあるようだ」

「残り5つか…。先は長いな」

「でも他に方法はないわ。全力を尽くしましょう」

「ああ、そうだな」

ケビンがタバコを口から離すと同時に、ホールの扉が開いてジムが姿を現した。

その手には2つのプレートが握られている。

「これで3つそろったな。にしても、アリッサ達はどうしたんだ?」

「アリッサとデビットはまだ地下を調べてるよ。俺もすぐ戻るつもりさ」

「だとすると、他に調べてないのは二階か?」

「よし、急ごうケビン。もうあまり時間が無い」

ジョージの言葉に頷きながら、ケビンは二階の通路を見上げた。

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