六ノ蝕 陰祭(天倉螢)

思えば、こうして懐中電灯を片手に廃屋の中を彷徨うのは、二年前に、失踪した兄を共に捜してほしいと頼まれた時以来だ。

あのときは氷室邸という山奥にある廃屋を訪れ、そこで厄介な事件に巻き込まれた。

色々と仕事が立て込んでいて多忙な時期ではあったが、失踪した彼とは大学時代からの付き合いで、彼の妹ともそれなりに交流があったので放って置く訳にもいかず、最終的に負傷した友人を背負いながら崩壊する地下道を全力疾走するという、思い出したくもない程の面倒な事件に首を突っ込む事になった。

命からがら疲労困憊で帰宅した際に、もう二度と安易な選択はしないと誓ったはずなのだが…。

結局またいつの間にか面倒事に首を突っ込んでいる自分がいる。

ここまで来ると、もはやこれも己の性分なのだと諦めるしかない。

「…まあ少なくとも、友人を見捨てるような奴よりはマシか」

そんな風に半ば無理やり自分を慰めながら、俺は二階にある医師詰所に足を踏み入れた。

優雨が向かった地下に入るには、他の入り口を探すか、あの鉄扉を開ける方法を探すしかない。

一階は全て見回ったがロビーにあるエレベーターと優雨が入って行った鉄扉しか地下に入る道はなかった。

当然ながら廃屋となった病院のエレベーターが動くはずもなく、地下に行く術はあの鉄扉に絞られた。

…それにしても、幾ら消えた妹が心配だったとは言え優雨の奴、無茶し過ぎだろう。

大学にいた頃から一度思い込むと周りが見えなくなる性質だと思っていたが、この状況で軽率な行動を取ればどうなるかくらいわかっているだろうに…。

心配するこっちの身にもなってほしいものだ。

「…ん?これは…」

考え事をしながら置いてある資料などに目を通していた俺は、机の本棚から見つけた日記に気になる文章を発見した。

"助手の日記"

本土から来て灰原先生の助手になれたときはすごく嬉しかった。

でも、全て間違いだったと気づいてしまった。

どうしてこんな島に来てしまったのかと後悔する日もあったけど、この島に来なければ詩織と出会うこともなかった。

彼女と出会えたことだけが、この島で唯一の幸運だったと思う。

たとえ何があったとしても、私は彼女をこの島から救い出したい。

巫女である彼女達を逃がせば、私ももうこの島にはいられないだろう。

それでも構わない。

彼女と、詩織と共に生きられるのなら。


祭の日が近づくにつれて、小さな島がざわめく。

だがそれは私にとって死刑宣告に等しい重さを持つ。

上手くいく保証などどこにもない。

だが、必ず成功させなければ。

手筈は整った。

後は冷静に事を運ぶだけだ。

島を出たら、葵さんに私達のことを話さなければ。

彼はもう気づいているかもしれないが、無事に認めてもらえるだろうか。

「祭…朧月神楽のことか?」

巫女というのは、朧月神楽で舞う巫女のことだろう。

しかし、それにしては切羽詰まった様子だ。

巫女には舞以外にも何か役目があるのか?

それとも、この島の祭には何か裏があるのだろうか…。

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