BIOHAZARD〜DEADRISING〜
Non-daily life

暗闇の中、悪夢から逃れるようにひたすら走り続けていたジーナは、体力の限界を感じてようやく足を止めた。

「はあ…はあ…っ」

壁に手をついて乱れた呼吸を整える。

深呼吸を繰り返しながら先程見た光景をもう一度思い出していた。

あれは何だったのか。

もしかして何かの映画の撮影だったのではないか。

いや、それとも…昼間カフェで聞いた話のせいでただ自分が寝惚けて隣人の痴話喧嘩を見間違えただけじゃないのか。

…まるで自分に言い聞かせるように、悪夢を消し去るように、何度も考えた。

「はあ……」

ようやく呼吸が落ち着いてきて、辺りを見回す余裕が出来た。

アパートからずいぶん離れたが、ここは病院の裏通りあたりだろうか。

表通りに出れば店も多いし人もいるはず。

あれが自分の見間違いだとしても、このまま一人で戻る気にはなれない。

表通りをいつも巡回している夜勤の警官に訳を話して一緒にアパートに来てもらおう。

正直に話しても信じてもらえないかもしれないが、怪しい人物を見た…とでも言えば、ついて来てくれるだろう。

「こんな事ならやっぱりBARに行けばよかったかな…そしたらこんな所まで全力疾走しないで済んだのに…」

時間が経てば経つ程、怯えていた自分が滑稽に思えて来る。

ふらふらと近付く人影が見えたからBARに寄るのは避けたが、今思えばあれはただの酔っ払いだったのかもしれない。

事実、昨日もアルバイトをしているときに酔っ払った客が何人か来て家に帰すのに苦労した。

「はあ…やっと通りに出た」

表通りに出ると、幾つかの店の明かりと通りを歩く人々が見えた。

何ら変わらないいつもと同じ光景だ。

やっぱりアパートで見たアレは、自分の見間違いだったのだとそう確信した瞬間、道を歩いていた女性がぐるりとジーナの方を振り返った。

「え…?」

振り返った女性の顔には、目玉がなかった。

ぽっかりと開いた両目からは血と膿が流れ出し、頬はまるでカラスにでも啄ばまれたように穴だらけになっていた。

「嘘……そんな……っ」

はっとなって辺りを見回すと、通りを歩く人々はよたよたとおぼつかない足取りをしており、血走った目は獲物を探す獣のようだった。

「い、嫌……嘘よこんな……嫌あああああ!!!」

絶叫してジーナは前も後ろもわからないまま走り抜けた。

血肉を欲して両腕を伸ばす人間とは思えない人々。

店の奥から聞こえて来る断末魔。

遠くで鳴る銃声。

何もかもが現実離れしていた。

それでも頭の中でははっきりと答えが出ていた。

これは、紛れもない現実なのだと…。

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