アメリカ中西部の地方都市、ラクーンシティ。 J's BARの隣にあるアパートの一室でジーナ・カーレンベルクは浮かない表情で仕事に出掛ける恋人を見送っていた。 「ねえ…どうしても無理なの?」 「帰って来たら必ず時間取るから」 「でも…」 「すぐに終わらせて帰って来るよ」 「…最近、何か嫌な予感がするの…夜に変な声とか聞こえるし…不安で…」 「ジーナ…悪い。帰って来たらどこでも好きな所に付き合うから、待っていてくれ」 「……わかった」 「愛してる」 頬にキスを落として、彼は去って行った。 恋人の姿が見えなくなるまでその場に立っていたが、やがて諦めにも似たため息をついてジーナは静かにドアを閉めた。 「…今日、デートだったのに…」 彼女の恋人、レオン・S・ケネディは特殊とも言える職業についており、休暇など年に数回あればマシという程の多忙さだった。 付き合ってだいぶ経つが、デートは勿論、まともな会話すら数える程度しかしたことがない。 本当に付き合っているのかどうかさえ、今はもうよくわからない。 そんな関係が続く中、レオンから誘われたデート。 一週間も前から楽しみにしていて、念入りにお化粧もして服装も頭が痛くなる程悩んで迎えた当日。 大統領の令嬢が何者かに誘拐されるという事件が起きて、レオンは行ってしまった。 「……」 しばらくぼうっと窓の外を見つめていたが、やがてぽたりと手に雫が落ちた。 視線を下に向けると、恋人と写った写真が入ったペンダントに涙が一粒零れ落ちていた。 付き合ったばかりの頃に撮った写真の中の二人は、とても幸せそうな笑みを浮かべている。 その笑顔を見ていると、胸が締め付けられる程悲しくなって、ジーナはそっとペンダントを閉じた。 と、そのとき、窓にコンッと何かがぶつかる音がしてジーナは顔を上げた。 ベランダに出て下を見ると、アパートの前に見慣れたバイクと青年が立っていた。 前へ 次へ |