第七章 憑落し編
□あいぞめ

暗く深い奈落の底で、あなたの首に手を掛ける。


自然と零れ落ちる涙があなたの頬を濡らすと、あなたはいつものように微笑んでくれた。


こんな時まで私の心配ばかりする妹に、私は少しだけ呆れてしまったけど…


あのとき感じたあなたの温もりを私は決して忘れはしない。


私の掌からあなたの温もりが消えたとき、私は初めて絶望という感情を知った。


いつも隣に居たあなたがいない。


ただそれだけのことなのに、私の世界は色を失い、何もかもが薄れて灰になっていく。


あなたを失った私は、いつか心の無い人形になってしまうかもしれない。


いっそこの心を捨てられたら、どんなに楽だろうか。


だけど…


それでもあなたと過ごした日々を、私は忘れたくない。


日を追うごとにあなたがいない生活に慣れていく私がいる…。


あなたと過ごした日々が、夢の中の出来事のように徐々に薄れて消えていく。


あなたの存在が、私の中から消えていく。


消さないで。消えて行かないで。


どうかあなたという存在を、私の中に留めていて。


そうすれば、私達はずっと一緒にいられるから。


だから私は、この身に刻み込む。


あなたという存在を私の中に焼き付ける。


せめてこの心だけはあなたと一つであることを願って、あなたが好きだった蝶の模様をこの胸に刻み込もう。


たとえこの身が朽ち果てても、魂に刻み込まれた想いだけは失くさないように…。

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