第四章 祟殺し編
□邂逅

私はひたすら森の中を走っていた。


目指す場所はただ一つ。


"もう一人の自分"が待つ場所。


辿り着きさえすれば、もうやることは決まっている。


覚悟もできている。


後はただ時間との勝負。


間に合うか、間に合わないか。


全力で走り続けながら、私はあることを思い出して苦笑を浮かべた。


昔、幼少の頃にやった鬼遊び。


もう…二度と訪れることのない日々。


右手に刀を持ち霧の中を走る自分は、まるで鬼のよう。


しかし…たとえ鬼に成り果てようとも、守りたいものがあるのだ。


やがて前方の木々の間に松明の明かりと人影が見えた。


見つけた…!


迷うことなく人影の方へ向かい、そして一瞬の躊躇いもなく、その影に刀を振り下ろした。


鮮血が舞い、怒号と悲鳴が辺りを包み込む。


その中でただ一人、茫然とした様子でこちらを見つめる人物がいた。


追われていたせいか、あちこち擦り傷や切り傷だらけになっているが、大きな外傷はないようだ。


…間に合った。


ほっと安堵して気が抜けた為か、無意識の内に口元に笑みを浮かべていた。


それと同時に幾つかの怒号が飛び交い、松明の火と狂気が襲いかかる。


もう一人の自分が、私の名前を呼んだ気がした…。


「!」


はっとなって目を覚ますと、そこは柵で囲まれた牢の中だった。


上の階から丈夫な縄で吊るされ、牢の下には何かの儀式を行う台座と祭壇が見える。


祭壇の近くには老婆と巫女姿の幼い少女がいた。


『破戒の巫女と共鳴せし巫女…。おお、これぞ天の導き。あの者が破戒の巫女の柊を引き受け眠りにつけば、破戒を鎮むることができるやもしれぬ…』


老婆は吊り牢を見上げながらどこか嬉しそうに言った。


『氷雨、失敗は許されぬ。くれぐれも目を離すでないぞ』


『はい、当主さま』


巫女姿の少女が頷くと、老婆はもう一度吊り牢に目をやり、静かに部屋を後にした。

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