第三章 獄流し編
□静寂の交わり

ふと目を覚ますと、そこは柏木家の座敷牢の中だった。


一瞬なぜ自分がここにいるのかわからず、繭は辺りを見回して訝しげな顔をした。


「なんで……!」


そこでふと気を失う前のことが頭に浮かび、繭は慌てて牢の扉を見た。


しかし扉には外側から南京錠が掛けられていて開きそうにない。


「どうして……」


そこでようやく繭は、自分が白い着物を着ていることに気づき首を傾げた。


着替えた記憶はないし、そもそもこの着物は紗重が着ていたはず。


辺りを見回すが自分が着ていたはずの服はどこにもなかった。


ということは、紗重が自分の衣装と取り替えたということか。


しかしいったい何の為に?


…嫌な予感がする。


澪とはぐれてさまよっていたときに見つけた紗重の日記には、自分を置き去りにして逃げた片割れへの怨みが綴られていた。


それと同時に独りきりになった孤独や悲しみも綴られていた。


もしかして紗重は、自分に成り済まして澪と一緒にこの村から逃げ出すつもりなのか?


顔は全く見分けなどつかないし、違うとすれば服装くらいだ。


声もほとんど違いはないし、成り済ますことは十分可能と言える。


そこまで考えて繭は苦笑を浮かべた。


…そんな訳ないか。


澪は私を置き去りになんかしない。


世界でたった一人の片割れだもの。


自分と紗重を見分けることくらいできる。


私だってそう、たとえ顔の似た誰かが澪に成り済ましていたって澪かどうかくらいすぐにわかる。


澪を信じよう。


澪ならきっと助けに来てくれる。


繭はそう信じてポケットに入っていた御守りを握り締めた。

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