第三章 獄流し編
□獄流し

八重…


わかってたの、本当は。


もうあなたは私のもとへ戻って来てはくれないと。


それでも待ち続けていたのは、あなたの為じゃない。


あなたと同じ場所へ逝くことを恐れた、私の弱さ。


でも逃れられるはずがなかったの。


この胸に刻まれた刻印からは――……



静まり返った柏木家の土蔵にある座敷牢の中、園崎紗重はこれから自分に訪れるであろう未来を想像して震え上がった。


千歳と共に立花家の一室に囚われていた紗重は、立花家当主である宮司にこの柏木家へと連れて来られた。


牢の扉を閉め、宮司は去り際にこう言ったのだ。


『これから腸流しを行う。オヤシロさまがお前の罪を流して下さるのだ』


宮司の言う紗重の罪とは、樹月たちと共に双子巫女の運命を投げ出して村から逃げ出そうとしたことである。


けれど、紗重にはもう一つ罪があった。


その罪はオヤシロさまでも流してはくれない。


誰にも消すことのできない罪。


双子巫女の罪を流したとしても、園崎紗重の罪は決して消えはしないのだ。


そして腸流しの贄になるということは、とうとうその罪に対する罰を受ける時がやって来たということだ。


それが紗重にはとても恐ろしかった。


望んで罪を犯したはずなのに、いざ罰を受けるとなると体中が震える程恐ろしかった。


しかしもうどうすることもできない。


たとえここから逃げ出したとしても、自分は自分の罪から逃れることはできない。


悪あがきだと知ってなお最期まであがき続けるのか、それとも己の罪を受け入れ潔く罰を受けるのか。


紗重は今、その選択を迫られていた。


「…どうして……どうして私がこんな目に遭わなくちゃならないの……。私は何も悪くないのに。悪いのは……悪いのは……っ」


己の不運を嘆いて涙したとき、重い土蔵の扉が開いた。

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