もう賽は投げられている。 あなたがどの道を選ぼうとも、いずれあなたは後悔することになる。 初めからあなたに選択の余地などないのだから… 神社へ続く長い階段を上りながら、螢は深いため息をついた。 山へ入ったきり姪が戻らないと知らせを受けたのが、昨日の夕方。 村人たちにも協力してもらい、全員で山中を捜索したが、二人は見つからなかった。 結局そのまま日が暮れてしまい、このまま捜し続けても自分が道に迷うだけだと判断し、昨日は家に帰った。 しかし、いなくなった姪のことが心配で一睡もできなかった。 もし山中で怪我でもして動けなくなっていたとしたら… もし何かの事件に巻き込まれていたとしたら… そんな不安がずっと拭いきれず、気がついたら朝を迎えていた。 「…やはり止めるべきだった……」 今更後悔しても遅いが、そう呟かずにはいられない。 もう一度ため息をついて階段を上がると、そこには小さな神社が建っていた。 オヤシロさまという神様を祀っている神社だ。 「ここへ来るのも久しぶりだな…」 懐かしさを感じつつ社へと近づくと、ふと鳥居のそばに二人の少女が立っていることに気がついた。 まだ十を超えるか超えないかというくらいの幼い少女で、一人は胸に大きなリボンをつけており、もう一人は巫女のような衣装を着ている。 二人はどこか悲しげな表情でこちらを見つめている。 ふと胸に大きなリボンをつけた少女が、一歩前に出て口を開いた。 「螢。もう姪っ子たちを捜しても無駄なのです」 「え……」 一瞬何を言われているのかよくわからなかった。 しかし、少女の目は真っ直ぐ自分に向いている。 「俺を知っているのか?」 少女たちに見覚えは無い。 地元へ帰って来たのは久しぶりだし、前に帰って来た時は仕事の関係で翌日には都会にある自分の家へ戻ってしまった。 姪っ子である澪たちも普段は都会で暮らしており、地元に友達はいないはず。 「螢。もう行っても無駄なのです。あなたが捜してる姪っ子たちは、もうあの村にはいないのです」 「村…?」 螢は訝しげな表情を浮かべるが、少女は落ち着いた態度でじっと螢を見ている。 「どういうことだ?君は、澪たちのことを知っているのか?」 少女は一瞬目を伏せ、それから小さく首を振った。 「何があったのかはわからない。…でも、もうあの村に行く意味はない。もう賽は投げられているのだから」 螢には少女の言葉の意味が理解できなかった。 「あなたがどういう人なのかはよく知っている。…勘違いしないで欲しい。私はあなたのことが嫌いだから、こんな事を言っているんじゃない。…どうでもいい人に、わざわざ忠告する必要なんてないのだから」 「忠告…?」 「あなたの未来はもう決まっている。どの道を選ぼうとも、あなたはきっと後悔することになる。それは、おそらくもう変えようのない運命」 「運命?一体何を言っているんだ…」 少女は一瞬目を伏せ、そしてすっと顔を上げた。 「でも、今ここであなたが踏み止まれば、この世界は少しだけ変わる。そうしたら、もしかしたら一つ……いえ、二つの命を救えるかもしれない」 「?」 螢は益々訝しげな表情を浮かべる。 一体この少女は何を言っているのか。 自分は姪を捜しているとは、一言も言っていないのにどうして知っているのか。 いや、その前に、この少女は何者なのか。 「君は一体誰なんだ?」 そう螢が問いかけると、少女は一呼吸置いてどこか大人びた口調で答えたのだった。 no 次へ |