漆黒の闇の中、繭はひたすら息を殺して祈り続けていた。 どうか見つかりませんように……と。 そっと戸の隙間から外を覗くと、座敷の中を歩く人影が目に映った。 何かを探しているのか、まるで幽霊のようにふらふらと歩いている。 白い着物は血と泥で汚れ、素足の為か足にはたくさんの擦り傷があった。 見ていて痛々しい姿だったが、彼はもはや痛みさえも感じていないようだった。 (どうして……樹月君……) 祈りながら繭は悲痛な表情で数時間前のことを思い出していた。 …神社の抜け道から脱出を図った澪と繭は、目の前の光景に絶望を感じずにはいられなかった。 「そんな……どうして!」 「ここまで来たのに…っ」 外へ繋がる唯一の出口は、土砂で埋もれ、光さえ差し込まない。 走っている最中に光っていると見えたのは、近くに転がった松明の明かりだった。 「やっと出られると思ったのに…っ」 悔しそうに唇を噛んだその時、ひたひたと迫る足音が聞こえた。 「澪…っ」 「…っ」 暗闇の中、松明の明かりの中にぼんやりと浮かぶその姿は、まさしく鬼そのものだった。 右手に日本刀を持ち、左手には村人らしき男の頭を掴んでいた。 はだけた着物は返り血で赤黒く染まっている。 柏木良寛。 柏木家の当主にしてこの村の長たる人物だ。 いったいなぜこんな事になったのかはわからないが、良寛は完全に正気を失っていた。 「み、澪…っ」 繭は泣きそうな顔で妹の手を握り締めた。 やっとの思いでここまで辿り着いた二人だったが、ここから外に出られない以上もう逃げ場はなかった。 「どうして…なんで私達がこんな目に……」 澪がそう呟いた瞬間、目の前に日本刀が振り下ろされた。 「きゃああ!!」 「!」 繭は悲鳴を上げ、澪は声もなく後ずさる。 このままでは間違いなく殺される。 「……嫌……そんなの…絶対嫌!!!」 緊張の糸が切れたのか、澪はとっさに落ちていた石を拾って良寛に殴りかかった。 ゴッという鈍い音と共に良寛はその場に崩れ落ちる。 額から血が流れ出していたが、澪は構わず繭の手を取ってその場を逃げ出した。 no 次へ |