第一章 綿流し編
□綿流し

灯篭の明かりにぼんやりと照らし出される扉。


その前に澪は立っていた。


「お姉ちゃん…」


神社の抜け道から脱出に失敗し、大広間で我を失った樹月に襲われて逃げ出し、その途中で繭ともはぐれてしまい、澪は再び柏木家へと戻って来た。


姉の無事を願いながら中へと入ると、家の中はまるで廃屋のようにしんと静まり返っていた。


少し前までたくさんの村人がいたのに、今は人の気配すらない。


「みんな…殺された………このままじゃ私達も……」


大広間の惨劇を思い出して、澪は自分の体を抱いた。


「…お姉ちゃん……どこにいるの?」


立ち止まっていると嫌な想像ばかりしてしまう。


澪はぎゅっと手を握り締め、奥へと進んだ。


廊下を通り過ぎ、大広間に入ると、樹月に殺害された村人の死体が消えていた。


残っているのは大量の血痕と刀傷だけだ。


「……」


それらをなるべく見ないようにして、澪は坪庭階段に出た。


階段を上がりながらふと空を見上げれば、そこには重苦しい雲とぼんやりと浮かぶ月がある。


澪と繭がこの村に迷い込んでから、何時間経っているのかはわからないが、いつまで経っても夜は明けない。


もうとっくに朝になっていてもおかしくないのに、空には全く変化がなかった。


「夢でも見てるのかな……。それとも、本当は私達、もう死んじゃってるのかな……」


色々な事があり過ぎて、頭が上手く回らない。


何もかもどうでもいいような気もするし、何としても家に帰りたいとも思っている。


「何だか頭がぼうっとする……風邪でも引いたのかな」


額に手を当てながら、澪は三階廊下の扉を開けた。

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