その階段を下りてはいけない… それは、奈落へと続く階段なのだから… ……それでもあなたは下りると言うのなら、決して前を見てはいけない… 真実は、あなたの後ろにあるのだから… 「はあ……はあ……くそっ、あいつらどこへ行ったんだ…」 額から流れ落ちる汗を拭いながら、螢は木に手をついて呼吸を整えた。 こうして乱れた呼吸を整えるのがいったい何回目になるのか、数えるのも億劫に感じる。 「澪…繭……いったいどこにいるんだ……」 山へ行くと言って出て行く姪を見送って、もうすぐ丸一日が経過しようとしている。 暗くならない内に帰って来いと注意したにも関わらず、二人は夜の9時を回っても帰って来なかった。 夕方頃から通りかかる村人たちに、二人を見なかったかと問いかけていたが、誰一人見たと答える者はいなかった。 森で迷ったのかもしれないと、数人の村人たちと共に山へ入ったが二人は見つからず、結局その日、二人は帰って来なかった。 翌日、早朝から村人たちに協力してもらい、こうして山中を捜し回っているが、姿はおろか声さえ聞こえない。 いくら迷いやすいと言っても、これだけ捜して見つからないはずがない。 何らかの事件に巻き込まれたのか、それとも足を滑らせて崖から落ちたのか。 念の為、崖下も捜したが二人は見つからなかった。 「はあ……あいつら、気をつけろって言ったのに…」 そう呟いた時、そこへ螢と同じく息を切らした村人が二人現れた。 「螢ちゃん、どうだったよ?」 「姪っ子さんは見つかったかね?」 螢は汗を拭って、首を振った。 「いや…そっちは?」 村人たちは首を振ると、深いため息をついて空を見上げた。 「今日はもう下りんと、これ以上は無理じゃて」 「螢ちゃんも今日は諦めて澄さんとこ帰らんと。昨日一晩中捜し回っとったんじゃろ?」 「あ、ああ……けど…」 「大丈夫じゃて。あの子らならきっと見つかる」 「そうじゃよ、螢ちゃん。今日も帰って来んかったら、明日興宮の警察に来てもらおうや。皆で捜せばすぐ見つかんよ」 「……」 螢はまだ諦めずにいたが、さすがに体力の限界を感じ、山を下りることにした。 「わかった……。けど、ちょっと寄る所があるから、おやっさん達は先に下りてくれ」 「ほんなら先帰るけど、螢ちゃんもあんまり遅くならない内に帰らんと澄さん心配するで」 「ああ…わかってる」 螢は村人たちと別れると、山を下りるのとは別方向へ歩き出した。 no 次へ |