それは偶然ではなく必然。 たとえどのような未来が待っていようとも、逃れる術などありはしない。 そして、全ては「零」に戻る―…… 美しい鈴の音が聞こえたような気がして、螢は目を覚ました。 「……御園……か」 そこは桜の木のある丘の上だった。 その桜の木の下で幼い一人の少女がうずくまり、泣いている。 螢が近づくと、少女はゆっくりと顔を上げ、そしてどこか嬉しそうに呟いた。 『やっと来てくれた……』 ぼやけるように少女の姿が霧と化す。 その中から一匹の紅い蝶が宙を舞い、村の方へ飛んでいった。 誘われるようにその後を追って行くと、逢坂家前の通りを白髪の少年が通り過ぎた。 『ずっと待ってた……この時をずっと……』 囁くようにそう言って桐生家の方へ消えていく。 「…樹月……」 ぽつりと少年の名を呟き、螢は樹月の後を追った。 そして門の前まで来ると、そこに紗重が立っていた。 紗重はじっとこちらを見つめると、何かを悟ったように背を向け、門を開いた。 『必ず来てくれると信じてた……』 そう呟いて、紗重は橋を渡って行く。 ふと見ると、橋の向こうの門の前に宮司らしき人影が立っていた。 螢が門の前まで来ると、宮司たちは一礼して門を開いた。 その瞬間、黒い霧のようなものが辺りを包み込み、やって来た道を覆い尽くした。 「…隠さなくても、もう逃げはしないさ…」 どこか自嘲的な笑みを浮かべ、螢は柏木家へと入って行った…。 no 次へ [しおりを挟む][戻る] |