ねいりゃさよ はたて ねいりゃさよ はたて 鎮女たちの子守唄が響き渡り、ガラガラと音を立てながら上階へ引き上げられていく吊り牢を見つめながら真冬はほっと安堵のため息をついた。 四つの鎮メ石を祭壇に納めることで、どうにか吊り牢を上階に引き上げることができた。 これで二階から吊り牢のある部屋へ回れば、中にいた女性を救い出すことができるだろう。 「そう言えば…書庫の奥に梯子があった。あそこから行けるかもしれない…」 真冬はもう一度吊り牢に目をやり、御簾の間へ戻った。 すると、雨音という巫女姿の少女が書庫へ上がって行くのが見えた。 あの少女も吊り牢の所へ向かっているのだろうか…? 「…あの女性を救い出せれば、深紅は…目覚めるのだろうか」 かすかな期待を胸に、真冬は階段を上がった。 雨音は本棚の間を通り、梯子から上へ上って行く。 その後を追って上に上がると、明滅する廊下の奥に吊り牢が見えた。 駆け寄って中を覗いてみると、吊り牢の中に人影はなかった。 牢の中には桜模様の着物が残されており、その上に添えるようにして日記らしき本が置かれている。 "朱鷺色の日記" この身に刻まれた柊は、毎夜たくさんの人の夢を私に見せます。 大切な人との別れ、悲しみ、心を蝕む痛み。 だんだんと私は私でなくなっていく。 でも、それでも私はまだ私でありたいと願っている。 どんなに苦しくとも、私はまだあの×から逃れられないでいる。 身を引き裂くような痛みよりも、×の悪夢の方がずっと怖いのです。 もう見たくありません。 もうすぐ私は終ノ路へ送られるでしょう。 でも、きっと兄さんは来てくれる。 この鈴の音が響く限り、兄さんは必ず私を見つけてくれます。 約束したから。 だから早く見つけてください。 私は此処にいます。 「終ノ路……」 そう呟いたときだった。 吊り牢の向こうに、雨音が立っていた。 しかし、その姿と重なるように深紅もいる。 彼女はじっと日記を見つめながら、祈るように呟いた。 『もうすぐ……来てくれる。……あの人が………』 no 次へ [しおりを挟む][戻る] |