「因果…か」 そうぽつりと呟いて、螢は机の上にそっと黒い手帳を置いた。 これは山中で発見されたとき、澪と繭が持っていた持ち物の一つだ。 繭は山の中で拾ったと言っていたが、螢はその手帳に見覚えがあった。 「父親があの山で失踪し、今度は娘…。全く、何の因果だか…」 その手帳は十年近く前に失踪した澪と繭の父親、秋山操の物だった。 山へ入ったきり行方がわからなくなった繭を捜して山へ入り、そのまま繭と入れ替わるようにして行方不明になった。 手帳のメモによれば、彼は山の中である村に迷い込んだらしい。 しかしあの山にはそんな村は存在しない。 なら一体彼はどこに迷い込んだと言うのか。 もし彼が本当にメモにあった「地図から消えた村」に迷い込んだのだとしたら… 澪と繭もその村に迷い込んだのだろうか。 そして、そこで何かがあった。 あの明るく活発だった澪が、あれほどまでに変貌する何かが、そこにはあったと言うことか。 「……村……か。夢の中で見たあの村も普通じゃなさそうだったな」 思い出すのは少女が殺されたあの場面と、日本刀を振り上げる少年の姿。 あの少年が祭主…あの屋敷の当主なのだろうか。 だとしたら、彼はなぜあのような…… そこまで考えて、螢は重たい瞼を閉じた。 ……ずっと待ってた…… 必ず来てくれると信じてた…… ……あのときの…約束…… …だから…… 早く……私を……… 「ここは……」 ふと気づくと、そこは柏木家の玄関だった。 しんと静まり返った屋敷に、人の気配はない。 「…とにかく、調べてみるしかなさそうだな。……ここが夢だとしても」 螢は深いため息をつくと、蝶が描かれた扉を開けて物置部屋に入った。 no 次へ [しおりを挟む][戻る] |