FAITAL FRAME〜刺青ノ聲〜
□三ノ刻 禁忌-キンキ-

その日、黒澤怜から連絡をもらい、真冬は黒澤邸を訪れた。


リビングのソファーに座り、コーヒーを受け取ったところで、真冬は口を開いた。


「あの…それで、深紅の日記が見つかったというのは本当ですか?」


怜は静かに頷くと、横に置いてあったノートを真冬に渡した。


桃色の和柄模様の日記だ。


"深紅の日記"

いつからその夢を見るようになったのか、今ではもう思い出せない。

でも、ずっと前から見ていたような気がする。

雪の降る大きな屋敷。

鳴り響いている子供の子守唄。

屋敷の奥から聞こえてくる鈴のような音。

少しずつ奥へと進んで、気がつくと大きな社の前に立っていて、そこに着物を着た男性が立っている。

私はその人をよく知っているはずなのに、なぜか思い出せなくて。

その人はいつも誰かを探すように屋敷内を彷徨っている。

誰を探しているのかわからないけれど、とても必死で。



でも、本当はわかってるの。

その人が誰を捜しているのか。

誰を求めているのか。

あのとき、私も同じ気持ちだったから。

だから、逢わせてあげたいと思った。

きっとあの人もそれを望んでる。

とても冷たい井戸の底のような場所で、あの人はずっと待ち続けていた。

もう少しで、逢える。

でも、いつも途中で目が覚めてしまう。



これ以上奥へ進んだら戻れなくなるのかもしれない。

だけど、私はあの人の願いを叶えてあげたい。

最初で最後のあの人の願い。

私があの屋敷へ行ったのは、きっとあの人の声を聞いたから。

兄さんが清純さんに導かれたように。

だから、叶えてあげたい。

逢わせてあげたい。

たとえそれで私がどうなったとしても。

もうあの人の悲しい声を無視することはできない。

だから、行かなきゃ。

ごめんなさい、兄さん。



日記はそこで終わっていた。


後には空白のページだけが続いている。


「この前の取材のときから、あの子…少し様子が変だったの」


「取材…?」


「東北にある幽霊屋敷って呼ばれている廃屋の取材に行ったの…。そのとき、深紅が何もない廊下の奥を見つめてて……」


「廃屋…!」


怜の言葉に真冬は驚愕の表情を浮かべる。


「あの子、何でもないんですって言ってたけど…今思えば、あのときあそこで何か見たんじゃないかって…」


「そう…ですか……」


真冬は小さなため息をついて日記に目を落とした。

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