その日、黒澤怜から連絡をもらい、真冬は黒澤邸を訪れた。 リビングのソファーに座り、コーヒーを受け取ったところで、真冬は口を開いた。 「あの…それで、深紅の日記が見つかったというのは本当ですか?」 怜は静かに頷くと、横に置いてあったノートを真冬に渡した。 桃色の和柄模様の日記だ。 "深紅の日記" いつからその夢を見るようになったのか、今ではもう思い出せない。 でも、ずっと前から見ていたような気がする。 雪の降る大きな屋敷。 鳴り響いている子供の子守唄。 屋敷の奥から聞こえてくる鈴のような音。 少しずつ奥へと進んで、気がつくと大きな社の前に立っていて、そこに着物を着た男性が立っている。 私はその人をよく知っているはずなのに、なぜか思い出せなくて。 その人はいつも誰かを探すように屋敷内を彷徨っている。 誰を探しているのかわからないけれど、とても必死で。 でも、本当はわかってるの。 その人が誰を捜しているのか。 誰を求めているのか。 あのとき、私も同じ気持ちだったから。 だから、逢わせてあげたいと思った。 きっとあの人もそれを望んでる。 とても冷たい井戸の底のような場所で、あの人はずっと待ち続けていた。 もう少しで、逢える。 でも、いつも途中で目が覚めてしまう。 これ以上奥へ進んだら戻れなくなるのかもしれない。 だけど、私はあの人の願いを叶えてあげたい。 最初で最後のあの人の願い。 私があの屋敷へ行ったのは、きっとあの人の声を聞いたから。 兄さんが清純さんに導かれたように。 だから、叶えてあげたい。 逢わせてあげたい。 たとえそれで私がどうなったとしても。 もうあの人の悲しい声を無視することはできない。 だから、行かなきゃ。 ごめんなさい、兄さん。 日記はそこで終わっていた。 後には空白のページだけが続いている。 「この前の取材のときから、あの子…少し様子が変だったの」 「取材…?」 「東北にある幽霊屋敷って呼ばれている廃屋の取材に行ったの…。そのとき、深紅が何もない廊下の奥を見つめてて……」 「廃屋…!」 怜の言葉に真冬は驚愕の表情を浮かべる。 「あの子、何でもないんですって言ってたけど…今思えば、あのときあそこで何か見たんじゃないかって…」 「そう…ですか……」 真冬は小さなため息をついて日記に目を落とした。 no 次へ [しおりを挟む][戻る] |