Wheel of Fortune〜紅い蝶〜
□一ノ刻 鬼ヶ淵村

「すごい風だったね…大丈夫?お姉ちゃん」


「う、うん…」


乱れた髪を直してふと顔を上げると、さっきよりも辺りが暗くなったような気がした。


「あ、そういえばさっきの人…」


川の向こうへと目をやると、もうそこに男性の姿はなかった。


辺りを見回しても人の気配はない。


「…ねえ澪。帰ろう?何だか…暗くなって来たし」


「うん…そうだね」


澪はそう答えて山を下り始めた。



どれくらい経ったか。


澪たちはまだ山の中にいた。


小川から村までそれほど遠い距離ではないのに、何故か辿り着けない。


「…澪」


不安げな顔で繭が声をかける。


「だ、大丈夫だよ。もうすぐ着くよ。…暗くなって来たから時間が経つのが早い気がするだけだって」


「……」


二人はまた黙々と歩き続けた。


しかし一向に森の出口は見えて来ない。


それどころか、同じところをぐるぐる回っているような気がする。


「…澪」


もう一度繭が声をかける。


澪は仕方なく足を止めて辺りを見回した。


しかしどっちへ行ったらいいのか全くわからなかった。


「……道に…迷った、かな?」


「どうしよう……」


もうすっかり辺りは暗くなってしまって、数メートル先も見えない。


前へ進んでいるのか、戻っているのかさえわからない。


「少し休憩しよう、お姉ちゃん。疲れたでしょう?」


繭は黙り込んだままその場にうずくまる。


澪も同じように腰を下ろして小さなため息をついた。


「ここで待ってれば、叔父さん、来てくれるかな…」


「…でも、これだけ暗かったら明日になっちゃうかもしれないよ」


「…野宿は…嫌だな」


いつもなら冗談に聞こえるはずの言葉も、この状態では笑い飛ばせない。


「明かりくらい持って来ればよかったね…」


そう澪が呟いたとき、ふと繭が何かを見つけて前方を指差した。


「澪、あれ…」


後ろを振り返り、繭が指差す方へ目をやると、かすかに動く明かりが見えた。


立ち上がって目を凝らしてみると、それは松明の明かりのようだった。


木々の間をちらちらと幾つかの明かりが通り過ぎて行く。


「きっと叔父さんたちが捜しに来てくれたんだよ!早く行こう、お姉ちゃん」


「うん…!」


澪と繭は一気に元気を取り戻し、明かりの方へ向かった。

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