「すごい風だったね…大丈夫?お姉ちゃん」 「う、うん…」 乱れた髪を直してふと顔を上げると、さっきよりも辺りが暗くなったような気がした。 「あ、そういえばさっきの人…」 川の向こうへと目をやると、もうそこに男性の姿はなかった。 辺りを見回しても人の気配はない。 「…ねえ澪。帰ろう?何だか…暗くなって来たし」 「うん…そうだね」 澪はそう答えて山を下り始めた。 どれくらい経ったか。 澪たちはまだ山の中にいた。 小川から村までそれほど遠い距離ではないのに、何故か辿り着けない。 「…澪」 不安げな顔で繭が声をかける。 「だ、大丈夫だよ。もうすぐ着くよ。…暗くなって来たから時間が経つのが早い気がするだけだって」 「……」 二人はまた黙々と歩き続けた。 しかし一向に森の出口は見えて来ない。 それどころか、同じところをぐるぐる回っているような気がする。 「…澪」 もう一度繭が声をかける。 澪は仕方なく足を止めて辺りを見回した。 しかしどっちへ行ったらいいのか全くわからなかった。 「……道に…迷った、かな?」 「どうしよう……」 もうすっかり辺りは暗くなってしまって、数メートル先も見えない。 前へ進んでいるのか、戻っているのかさえわからない。 「少し休憩しよう、お姉ちゃん。疲れたでしょう?」 繭は黙り込んだままその場にうずくまる。 澪も同じように腰を下ろして小さなため息をついた。 「ここで待ってれば、叔父さん、来てくれるかな…」 「…でも、これだけ暗かったら明日になっちゃうかもしれないよ」 「…野宿は…嫌だな」 いつもなら冗談に聞こえるはずの言葉も、この状態では笑い飛ばせない。 「明かりくらい持って来ればよかったね…」 そう澪が呟いたとき、ふと繭が何かを見つけて前方を指差した。 「澪、あれ…」 後ろを振り返り、繭が指差す方へ目をやると、かすかに動く明かりが見えた。 立ち上がって目を凝らしてみると、それは松明の明かりのようだった。 木々の間をちらちらと幾つかの明かりが通り過ぎて行く。 「きっと叔父さんたちが捜しに来てくれたんだよ!早く行こう、お姉ちゃん」 「うん…!」 澪と繭は一気に元気を取り戻し、明かりの方へ向かった。 前へ 次へ [しおりを挟む][戻る] |