Wheel of Fortune〜紅い蝶〜
□一ノ刻 鬼ヶ淵村

「綺麗だね…澪」


「うん…」


小川の近くにある岩にお互いの背を預けて座り、澪と繭は微笑んだ。


幼いときに何度か遊びに来たことはあるが、こうして二人でゆっくりと過ごす時間は久しぶりだった。


「やっぱりここって何だか懐かしい感じがするね」


「そうだね。小さいときから、ずっと前から知ってたような気がして…」


「…ねえ澪、前世って知ってる?」


「前世?それってよく占いとかにある?」


「うん」


繭はこくりと頷いて、流れる川に目をやった。


「現世で出会った人は、前世でも出会ったことがあるんだって」


「じゃあ私とお姉ちゃんは前世でも双子だったのかな?」


「そうだったら…嬉しいな」


繭はにこっと笑って空を見上げた。


つられるように澪も空に目をやる。


「ねえ…澪」


「何?お姉ちゃん」


「私達……ずっと一緒だよね?」


どこか寂しそうな姉の声に、澪は一瞬訝しげな表情を浮かべるが、すぐに頷いて言った。


「当たり前じゃない。私とお姉ちゃんは、ずっと一緒だよ。…約束したでしょう?」


幼い頃、同じ場所で同じように約束したことを澪は覚えている。


「…うん…」


こくりと頷いて繭はそっと澪の手に自分の手を重ねた。


ふわりと姉の手のぬくもりが手の甲に伝わる。


「…少し名残惜しいけど、そろそろ帰らないとおばあちゃん心配するかな」


「そうだね…」


そう言って二人は立ち上がった。


と、そのとき、ふと川の向こうに立つ人影に気づいた。


光の加減で顔はよく見えないが、若い男性のようだ。


一体いつからそこにいたのかわからないが、男性はただ静かにこちらを見つめていた。


その姿はどこかおぼろげで、ぼんやりと立ち尽くしている。


「誰だろう…?」


「さあ……村の人…かな」


二人が不思議に思っていると、男性がゆっくりと口を開いた。


『此処に来てはいけない……』


「え?」


思わず澪が聞き返したとき、突然強い風が吹いて、二人は目を閉じた。

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