Wheel of Fortune〜紅い蝶〜
□六ノ刻 片割レ月

樹月から椿の部屋へ行くといいと聞いた澪は、さっそく柏木家へと向かい脇戸から中へ入った。


土蔵へ上がり、ちらりと座敷牢へ目をやると、格子の向こうに俯く繭の姿があった。


「お姉ちゃん!」


澪が声をかけると、繭は少し驚いた様子で顔を上げた。


「澪!」


「お姉ちゃん、大丈夫?」


「…平気。それより、澪こそ大丈夫?」


「うん。ごめんね、もう少しだけ待ってて。必ず鍵を持って来るから」


澪がそう言うと、繭は微笑んで頷いた。


繭と別れて廊下に出た澪は、足早に仏間の前を通り過ぎ、物置部屋、玄関前を通って土縁廊下に出た。


どうやら村人たちは外へ澪を捜しに行っているらしく、家の中は静かだった。


少し緊張しながら大広間へ入ると、襖の向こうに人影が見えた。


『それにしても…なぜ今になって双子が?』


『園崎家の双子じゃないのかえ?』


『それがどうも違うらしいんです。園崎紗重はあの通り、立花家におりますし、園崎八重は今も行方知れずのまま』


『それじゃ村の者が見た双子というのは一体誰なの?』


『見た者の話では八重と紗重に瓜二つだそうですよ』


『…鬼隠しに遭おうた片割れが、村に残る片割れを迎えに来たということかねぇ…』


『良寛様は村に入った双子を紅贄にするおつもりでしょうけど、私は反対だわ。やっぱりあんな無慈悲なこと、するべきじゃなかったのよ。園崎の二の舞にはなりたくないもの…』


『でも、それじゃあこの村はいつになったら救われるんですの?またあんな事になったら…』


『まあ何にしても、全てはオヤシロさまのお導次第だがねぇ…。今更騒ぐ気にはなれんよ。私らは過ちを犯したんだ。これはその償いなのさ…』


そんな会話を耳にしながら澪は坪庭階段に出た。


「園崎……そう言えば、何度か聞いたことがあるけど、見かけないな…」


村の中には幾つかの大きな家が建っているが、園崎という家はなかった。


話を聞く限り、紗重はその家の娘のようだが、園崎家は一体どこにあるのだろうか。


そんなことを考えつつ三階廊下に入ると、花の模様が描かれた扉が並んでいた。


一番手前の扉には桔梗、その向かいに桜、桔梗の奥に菊、そして一番奥に椿の扉がある。


「ここが樹月君のお兄さんの部屋…だよね」


そっと椿の扉を開けてみると、そこには本で埋め尽くされた部屋が広がっていた。


壁には本棚が並び、入りきらない本が辺りに山積みになっている。


机の周りにも同じような山ができており、それに混じって巻物が積まれている。


「…すごい本の数……学校の図書室より多いんじゃないかな」


埋め尽くす本に圧倒されて後ろへ下がるが、すぐに首を振って澪は部屋に足を踏み入れた。


しかし、この中から日記を探し出すのは容易ではない。


「はあ……でもやるしかないよね。じゃないとお姉ちゃんを助けられないし…」


覚悟を決め、澪は両頬をパチンと叩いて気合を入れた。


そして片っ端から調べ始めたのだった。

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