樹月から椿の部屋へ行くといいと聞いた澪は、さっそく柏木家へと向かい脇戸から中へ入った。 土蔵へ上がり、ちらりと座敷牢へ目をやると、格子の向こうに俯く繭の姿があった。 「お姉ちゃん!」 澪が声をかけると、繭は少し驚いた様子で顔を上げた。 「澪!」 「お姉ちゃん、大丈夫?」 「…平気。それより、澪こそ大丈夫?」 「うん。ごめんね、もう少しだけ待ってて。必ず鍵を持って来るから」 澪がそう言うと、繭は微笑んで頷いた。 繭と別れて廊下に出た澪は、足早に仏間の前を通り過ぎ、物置部屋、玄関前を通って土縁廊下に出た。 どうやら村人たちは外へ澪を捜しに行っているらしく、家の中は静かだった。 少し緊張しながら大広間へ入ると、襖の向こうに人影が見えた。 『それにしても…なぜ今になって双子が?』 『園崎家の双子じゃないのかえ?』 『それがどうも違うらしいんです。園崎紗重はあの通り、立花家におりますし、園崎八重は今も行方知れずのまま』 『それじゃ村の者が見た双子というのは一体誰なの?』 『見た者の話では八重と紗重に瓜二つだそうですよ』 『…鬼隠しに遭おうた片割れが、村に残る片割れを迎えに来たということかねぇ…』 『良寛様は村に入った双子を紅贄にするおつもりでしょうけど、私は反対だわ。やっぱりあんな無慈悲なこと、するべきじゃなかったのよ。園崎の二の舞にはなりたくないもの…』 『でも、それじゃあこの村はいつになったら救われるんですの?またあんな事になったら…』 『まあ何にしても、全てはオヤシロさまのお導次第だがねぇ…。今更騒ぐ気にはなれんよ。私らは過ちを犯したんだ。これはその償いなのさ…』 そんな会話を耳にしながら澪は坪庭階段に出た。 「園崎……そう言えば、何度か聞いたことがあるけど、見かけないな…」 村の中には幾つかの大きな家が建っているが、園崎という家はなかった。 話を聞く限り、紗重はその家の娘のようだが、園崎家は一体どこにあるのだろうか。 そんなことを考えつつ三階廊下に入ると、花の模様が描かれた扉が並んでいた。 一番手前の扉には桔梗、その向かいに桜、桔梗の奥に菊、そして一番奥に椿の扉がある。 「ここが樹月君のお兄さんの部屋…だよね」 そっと椿の扉を開けてみると、そこには本で埋め尽くされた部屋が広がっていた。 壁には本棚が並び、入りきらない本が辺りに山積みになっている。 机の周りにも同じような山ができており、それに混じって巻物が積まれている。 「…すごい本の数……学校の図書室より多いんじゃないかな」 埋め尽くす本に圧倒されて後ろへ下がるが、すぐに首を振って澪は部屋に足を踏み入れた。 しかし、この中から日記を探し出すのは容易ではない。 「はあ……でもやるしかないよね。じゃないとお姉ちゃんを助けられないし…」 覚悟を決め、澪は両頬をパチンと叩いて気合を入れた。 そして片っ端から調べ始めたのだった。 前へ 次へ [しおりを挟む][戻る] |