柏木家を出て再び蔵へと戻った澪は、樹月に当主の間の本棚について話した。 『仕掛け……やっぱり何かあったのか。他に何か気づいたことはないかい?』 澪はうーん…と首を傾げつつ本棚を思い浮かべる。 「そう言えば…何か文字が刻まれてたよ。何だっけかな……えーと、確か、紅贄がどうのって……それに、オヤシロさまって文字も」 『紅贄……』 樹月はしばらく黙り込んだ後、呟くように言った。 『紅贄は蝶となりて鬼を鎮めん……』 「え?」 『そうだ……確か兄さんがそんなことを……』 「どういうこと?」 澪が尋ねると、樹月は何か思い出したように顔を上げた。 『柏木家にある兄さんの部屋へ行ってみるといい』 「お兄さん?」 『坪庭のある階段から三階へ行くんだ。一番奥の椿の部屋へ。兄さんの日記を読めば何かわかるかもしれない。兄さんはあの本棚の仕掛けを知っていたはずだから』 「でも…勝手に見ちゃっていいのかな。日記って…ちょっと気が引けるんだけど」 澪がそう言うと、樹月は苦笑を浮かべて言った。 『仕方ないさ。それに、兄さんはそういうことには全くこだわらない人だからね。部屋の鍵だっていつも閉め忘れてるし』 「うーん、何だか叔父さんと似たような人だなあ…」 『叔父さん?』 「まあいいや。とにかく行ってみる」 『気をつけて。決して父さん達に見つからないように』 澪は頷いて柏木家へと向かった。 no 次へ [しおりを挟む][戻る] |