村人たちの追跡を振り切り、再び桐生家へと戻って来た澪だが、桐生家の玄関は固く閉じられ、脇戸も開かないままだった。 仕方なく蔵にいる樹月のもとへ向かい、事情を話すと、樹月はしばらく黙り込んだあと、格子の隙間から黒い鍵を差し出した。 「これは…?」 『柏木家の脇戸の鍵だよ。おそらく君の姉は深道から柏木家へ送られたんだ』 「柏木家?」 『村の奥に一際大きな屋敷が見えるだろう?あそこがこの村を取り仕切る柏木家だよ』 「そこにお姉ちゃんがいるの?」 『君達が"双子"だと知れているのなら、おそらく彼女は柏木家の座敷牢に囚われているはずだ。そこから救い出せれば、まだ助かる道はある』 「でも…牢の鍵は一体どこにあるの?」 『…可能性があるとすれば、二階にある当主の間だと思う』 「当主の間…?」 『そうだ、これを持って行くといい。柏木家の見取り図だ』 そう言って樹月は折り畳んだ紙を澪に渡した。 「ありがとう…」 澪は見取り図に目をやった後、少し迷ったが、樹月に聞いてみることにした。 「樹月君は…どうしてここに囚われているの?」 『!』 樹月は一瞬目を見開き、それから辛そうな表情で俯いた。 『…これは、罰なんだ。僕らは、犯してはならない罪を犯した』 「罰…?僕らはって…じゃあ紗重やあの千歳って子も?」 樹月は静かに頷く。 『僕らは村の掟に逆らい、村から逃げ出そうとした。…紅贄となる運命から、逃げ出したんだ』 「紅贄…?」 樹月はぎゅっと手を握り締め、顔を上げた。 『さあ、柏木家へ急ぐんだ。決して捕まらないように…』 「う、うん…ありがとう」 澪はお礼を言って見取り図を手に、柏木家へと向かった。 no 次へ [しおりを挟む][戻る] |