Wheel of Fortune〜紅い蝶〜
□四ノ刻 鬼隠し

「二階に誰かいるみたい…」


「どうする?澪」


澪はしばらく考え込んだあと、意を決して階段を上った。


するとそこに、桐生家と同じような柵で囲まれた座敷があった。


座敷の中には白い着物を着た少女と、紅い着物を着た幼い少女がいる。


「お、お姉ちゃん!?」


その顔を見た瞬間、思わず澪は声を上げていた。


そして、自分の隣に立つ姉と、柵の向こうの少女の顔を見比べた。


『八重…!!』


少女も驚愕の表情を浮かべてこちらを見ている。


そして慌てて柵へと駆け寄った。


『八重!どうしてここにいるの?まさか…戻って来たの?』


どこか悲痛な表情を浮かべる少女に、澪は訝しげな顔をする。


「何のこと?八重??」


澪の反応に、少女は困惑する。


『八重では…ないの?』


「私は澪。こっちはお姉ちゃんの繭。…あなたは誰?」


少女はしばらくの間茫然としていたが、やがて俯き、悟ったように口を開いた。


『そう……そうよね。八重は……。ごめんなさい。似ていたから…』


少女はぎゅっと手を握り締めると、顔を上げて言った。


『私は紗重。あなた達、どうしてここにいるの?』


名前を聞いて澪と繭は驚く。


「紗重!あなたが?…よかった、私達、あなたを捜していたの」


『私を…?』


澪は蔵にいる樹月から聞いたことを紗重に話した。


『…樹月君が……。それでここへ来たのね』


「うん。桐生家の地の橋を通って来たの。…でもどうして紗重はここにいるの?樹月君は囚われているって言ってたけど…」


紗重はしばらく黙り込んだあと、顔を上げて言った。


『それより、他の家紋風車は持っているの?』


「ううん。立花の風車は蔵にあるって樹月君が言ってたけど…」


『それなら早くした方がいいわ。…ごめんなさい、園崎の家紋風車はここにはないの』


「え!」


『ここに囚われたときに取り上げられてしまって…。たぶん桐生のご当主が持っていると思うわ』


「そんな…」


澪と繭はがくりと肩を落とす。


と、そのとき、紗重の後ろで怯えた様子で二人を見ていた少女がぽつりと呟いた。


『お人形……』


「え?」


訝しげな顔をする澪たちに、紗重は苦笑を浮かべて少女の頭をなでた。


『この子は立花千歳。…千歳ちゃん、どうしたの?』


『…風車……お人形の部屋で見た』


「本当!?」


思わず澪が身を乗り出すと、千歳は小さな悲鳴を上げて紗重の後ろに隠れてしまった。


『ごめんなさい…この子、とても臆病なの』


「え?あ……ごめん」


『千歳ちゃん、風車は人形の間にあるの?』


しかし千歳は顔を隠したまま首を振る。


『お人形がたくさんあるところ…』


「たくさん?」


人形がたくさんあるところと言われて思いつくのは、紗重が言った人形の間だけ。


もしかして他にも人形がたくさん並ぶ部屋があるのだろうか。


そう澪が考えていたとき、紗重が何か思いついたように顔を上げた。


『もしかしたら、作業部屋かもしれないわ』


「作業部屋?」


『桐生のご当主は人形師なの。いつもたくさんの人形を作っていらっしゃるけど、その作業部屋のことかもしれないわ』


「それは、どこにあるんですか?」


繭が尋ねると、紗重は奥の机で何かを書いて、柵の間から紙を差し出した。


『簡単な見取り図だけれど、その印がついてる部屋が桐生のご当主の作業部屋よ』


「ここに家紋風車があるのね?」


『ええ、たぶん桐生の家紋風車もそこに。障子の間にある天の橋から桐生家に戻れるわ。ご当主の鍵があれば、桐生家からも入れるのだけど…』


「…わかった」


『気をつけてね。みんなあなた達のことを捜してる。捕まったら良寛様のもとへ連れて行かれてしまうわ』


「良寛?」


『この村を取り仕切っていらっしゃる方よ。…あの方には誰も逆らえないの』


「偉い人ってことね」


『いい?決して捕まってはだめよ。一度捕まれば、もう二度と後戻りできなくなるわ』


真剣な紗重の言葉に、澪と繭は緊張しながらも深く頷いた。


「わかりました…」


「ありがとう、紗重」


そう言って二人は桐生の見取り図を手に天の橋へと向かった。

2/5

前へ 次へ
[しおりを挟む][戻る]
「#年下攻め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -