Wheel of Fortune〜紅い蝶〜
□四ノ刻 鬼隠し

桐生家から地の橋へ下りた澪と繭は、ぼうっと灯る蝋燭の明かりを頼りに、薄暗い地下道、深道を歩いていた。


「村の地下にこんな洞窟があったんだね…」


「すごく深いみたいだけど…ここ、なんだか怖い」


「…あ、見てお姉ちゃん。向こうに何かある!」


しばらく進むと、縄梯子が掛かっていた。


どうやらここから立花家に入れるようだ。


「私が先に上がるね」


「気をつけて、澪」


力強く頷いて、まず澪が梯子を上った。


そっと天井の板をずらすと、そこは広い大納戸だった。


様々な物が置かれているが、人の気配はないようだ。


「大丈夫みたい。お姉ちゃん、いいよ」


下で「うん」と答える声が聞こえ、繭も大納戸へ上がった。


「ここが立花家…?」


「たぶんそうだよ。ここに紗重って人がいるんだ。早く捜さないと…」


そのとき、ふと廊下の方から話し声が聞こえて来た。


『聞いたか、この村に双子が現れたと!』


『皆、騒いでおるよ。村の者ではないようだが、見た者の話では園崎家の双子に瓜二つだったらしい』


『鬼隠しに遭うたあの家の者か…』


『何者かはわからぬが、双子がおれば儀式をやり直せる』


『すぐに捕まえろ!』


声と共に足音が遠くなっていく。


「やっぱりここも同じみたい…」


「澪…」


「…でも行くしかないよ。大丈夫、お姉ちゃんは絶対に私が守ってあげる」


澪は不安そうな繭をそう言って励まして廊下に出た。


人の気配がないことを確認して、暖簾の奥の部屋へ入ると、そこは桐生家と同じ双子部屋になっていた。


「この家…どうやらお隣さんと同じ造りになってるみたいだね」


「でも紗重さんはどこにいるんだろう…」


「うーん、私の勘では二階かな?」


「勘って…大丈夫なの、澪」


「大丈夫。私の勘は叔父さんゆずりで結構当たるんだから」


そうのん気な笑みを浮かべて澪は玄関に続く廊下に出た。


吹き抜けになっている時計のある広間へ入ると、二階の方からかすかに子供の泣き声が聞こえてきた。


それに混じって女性の声も聞こえる。


『大丈夫、きっと…きっと助かるわ。だから泣かないで。秋人さまは必ず戻って来てくれる』


『でも…』


『秋人さまが約束を破ったことなんて一度だってないもの。だから、大丈夫。必ず私達を救って下さる』


『……秋人さま……』

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