Wheel of Fortune〜紅い蝶〜
□三ノ刻 綿流し

「持ち出した…?」


「もしかしてこの人形のことかな…」


雛壇の陰から出た二人は未完成の人形を見て呟いた。


「茜って人が持ち出したみたいだけど…」


「…もう少し家の中を調べてみるしかないね。行こう、お姉ちゃん」


こくりと繭は頷き、澪と共に人形の間を後にした。


再び廊下に戻った二人は、二階を調べてみようと階段へと向かった。


ところが、廊下の角に近づいたとき、反対側から足音が聞こえてきた。


「み、澪っ」


「ど、どうしよう、どこか隠れるところ!」


ふと目についたのは暖簾の向こうにある扉。


二人は迷わず部屋へ飛び込んだ。


慌てて扉を閉めて鍵を掛けると、足音は静かに部屋の前を通り過ぎて行った。


「…あ、危なかったね…」


「うん…」


ほっと安堵のため息をついて後ろを振り返った瞬間、二人は小さな悲鳴を上げた。


なんと部屋の奥に人が座っていたのだ。


鏡台の前の座布団に、まるで人形のようにじっと座っている。


髪で顔はよく見えないが、まだ十歳くらいの幼い少女のようだ。


「あ……あの、ごめん…なさい…勝手に入って……」


しどろもどろになりながら澪が言うが、少女は振り向きもしない。


ただブツブツと小声で何か呟いているだけだ。


「……あの……」


もう一度声をかけてみるが結果は同じだった。


よく見ると、この部屋は他の部屋とはだいぶ違っていた。


置いてある家具も、小物も、全て二つずつ。


それも全く同じ物だ。


「…双子の…部屋?」


ぽつりと繭が呟いた。


現在二人が住んでいる叔父の家には、二階に澪と繭の部屋がある。


ベッドと机、それと少し小さめの箪笥が同じように二つずつ並んでいるのだ。


「…えーと……とりあえず、出ようか」


「う、うん…」


恐る恐る少女の背後を通り抜け、二人は玄関に続く廊下へ出た。

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