Wheel of Fortune〜紅い蝶〜
□二ノ刻 幽囚

驚いて振り返ると、そこには誰の姿もなかった。


「……あれ?空耳?」


不思議に思っていると、また声が聞こえた。


『そこにいるのは誰だ?』


きょろきょろと辺りを見回すと、蔵らしき建物から声が聞こえてくるのがわかった。


恐る恐る近づいて行くと、小さな格子窓の向こうに白髪の少年がいた。


澪たちより少し年上のようだが、少年は二人を見てひどく驚いている様子だった。


『や、八重!?それに、どうして紗重がここに…っ』


澪と繭は顔を見合わせて首を傾げる。


「私は天倉澪。こっちはお姉ちゃんの繭。人違いよ」


澪がそう言うと、少年は驚きながらも理解したようだった。


『天倉…?君達は村の人間ではないのか?』


「私達、森で道に迷って偶然ここへやって来たの」


そう言うと、少年はまた驚いたようだった。


『まさか村の外の人間がここへ……。いや、そんなことより、早くこの村から逃げるんだ!』


「え?」


『早く!この村にいちゃいけない!向こうに丘が見えるだろう?あの丘の鳥居から外に出られるはずだ』


少年がそう言うと、繭が小さく首を振った。


「出口は…なくなってたんです。確かにあそこから入ったはずなのに」


『何だって!?』


少年は格子を握り締めたまま何事か考え込んでいる様子だった。


「ねえ、ここは一体何なの?どうして私達を追って来るの?」


澪が尋ねると、少年は一瞬言葉を詰まらせ静かに首を振った。


『…それは言えない。でも、早くここから逃げないと大変な事になる』


「!」


『鳥居の道がだめでも、神社の抜け道ならまだ使えるかもしれない』


「神社?」


『村の西に古い社があるんだ。その祭壇の裏に村の外に繋がる深道がある。村の人間ではない君達ならまだ逃げ出せるかもしれない』


「?」


『とにかく早く神社へ行くんだ。村人たちに見つからないように。ここにいたら君達まで祟られることになる』


「祟られる…?」


『さあ、早く。神社へ』


二人は顔を見合わせ、少年に急かされるままその場を後にした。

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