驚いて振り返ると、そこには誰の姿もなかった。 「……あれ?空耳?」 不思議に思っていると、また声が聞こえた。 『そこにいるのは誰だ?』 きょろきょろと辺りを見回すと、蔵らしき建物から声が聞こえてくるのがわかった。 恐る恐る近づいて行くと、小さな格子窓の向こうに白髪の少年がいた。 澪たちより少し年上のようだが、少年は二人を見てひどく驚いている様子だった。 『や、八重!?それに、どうして紗重がここに…っ』 澪と繭は顔を見合わせて首を傾げる。 「私は天倉澪。こっちはお姉ちゃんの繭。人違いよ」 澪がそう言うと、少年は驚きながらも理解したようだった。 『天倉…?君達は村の人間ではないのか?』 「私達、森で道に迷って偶然ここへやって来たの」 そう言うと、少年はまた驚いたようだった。 『まさか村の外の人間がここへ……。いや、そんなことより、早くこの村から逃げるんだ!』 「え?」 『早く!この村にいちゃいけない!向こうに丘が見えるだろう?あの丘の鳥居から外に出られるはずだ』 少年がそう言うと、繭が小さく首を振った。 「出口は…なくなってたんです。確かにあそこから入ったはずなのに」 『何だって!?』 少年は格子を握り締めたまま何事か考え込んでいる様子だった。 「ねえ、ここは一体何なの?どうして私達を追って来るの?」 澪が尋ねると、少年は一瞬言葉を詰まらせ静かに首を振った。 『…それは言えない。でも、早くここから逃げないと大変な事になる』 「!」 『鳥居の道がだめでも、神社の抜け道ならまだ使えるかもしれない』 「神社?」 『村の西に古い社があるんだ。その祭壇の裏に村の外に繋がる深道がある。村の人間ではない君達ならまだ逃げ出せるかもしれない』 「?」 『とにかく早く神社へ行くんだ。村人たちに見つからないように。ここにいたら君達まで祟られることになる』 「祟られる…?」 『さあ、早く。神社へ』 二人は顔を見合わせ、少年に急かされるままその場を後にした。 前へ 次へ [しおりを挟む][戻る] |