「お姉ちゃん、お姉ちゃん起きて!」 肩を揺すると、繭は少しみじろいで目を覚ました。 「澪…?」 「お姉ちゃん、起きて。何かこの村様子が変なの」 「え…?」 と、そのとき、下の方から物音が聞こえた。 人の話し声も聞こえる。 どうやらさっきの村人たちが入って来たようだ。 『双子はどこだ?』 『二階の奥の客間で寝ています』 『…よし、念の為数人ここに残れ。残りの者は二階へ』 声と共に足音が近づいて来る。 「み、澪…っ」 「…っ」 澪は不安げな繭の手を掴むと、部屋を出て廊下へと走った。 すると、そこに縄を手にした男の姿があった。 『いたぞ!双子だ!!!』 「!」 澪はとっさに向きを変えると、囲炉裏の間とは反対にある階段から一階へ下りた。 『逃がすな!』 『急げ!』 後ろから村人たちが追ってくる。 「澪…っ」 「どこか…どこかないの、出口!」 追われるまま二人は廊下のつきあたりにある部屋へと飛び込んだ。 障子戸の向こうに綺麗な庭が広がっている。 しかし出口は見つからない。 扉の鍵を閉めても踏み破られるのは時間の問題だろう。 「澪、どうしよう!」 隠れられる場所はないかと部屋の中を見回すが、部屋の中にあるのは箪笥や衝立、火鉢だけだ。 押入れもない。 ドンドンッと扉を叩く音が響く。 「このままじゃ…っ」 と、そのとき、澪の目にあるものが映った。 「お姉ちゃん、こっち!」 障子戸を開き、庭へ飛び出した澪は、その場にしゃがみ込んで繭を呼んだ。 「早く、入って!」 そう言って縁の下へと潜り込んだ。 それに続いて繭も潜り込む。 扉が破られたのはその直後のことだった。 『いないぞ、確かにここへ入ったのか?』 『そのはずだが…どこへ行ったのだ』 『庭に隠れておるのでは?』 足音が近づいて来る。 澪と繭は必死で見つからないことを祈った。 と、そのとき、 『窓だ!庭の窓から大座敷へ入り込んだんだ!』 『逃がすな!急げ!!』 「…もう大丈夫みたい」 そっと顔を出して、澪は繭を呼んだ。 「苦しかった…」 「でも一体何だったんだろう。なんで私達、追われなきゃいけないの?」 服についた土を払いながら澪は呟く。 「澪、もうこの村から出よう?もう一度川へ戻れば村へ帰れるかもしれないし。…それにもうここにいるの嫌だよ」 「うん、そうだね。ここならまだ山の方がマシだよ。行こう、お姉ちゃん」 二人は人の気配に注意しながら玄関へと向かった。 どうにか無事に逢阪家から出た二人は、元来た道を戻り、鳥居の前までやって来た。 しかしその向こうに道はなく、とても人が入れるような場所ではなかった。 「どういうこと?だって私達、ここから入って来たはずなのに…」 呟いてみるものの、ここを通るのは自殺行為だ。 「どうしよう、澪…これじゃ出られないよ」 「……仕方ないね。どこか別の出口を探そう。きっと他にもあるはずだよ」 「……うん」 不安そうな顔で繭は頷いた。 仕方なく逢坂家前まで戻って来ると、通りを歩く村人の姿が見えた。 「っ…お姉ちゃん、こっち!」 「!」 慌てて近くの茂みに身を隠すと、村人は二人には気づかぬまま通り過ぎて行った。 「……行っちゃったみたい」 「怖かった…」 ため息をついて立ち上がった瞬間、 『誰かいるのか?』 背後から声が聞こえて、心臓が飛び上がった。 前へ 次へ [しおりを挟む][戻る] |