Wheel of Fortune〜紅い蝶〜
□二ノ刻 幽囚

「お姉ちゃん、お姉ちゃん起きて!」


肩を揺すると、繭は少しみじろいで目を覚ました。


「澪…?」


「お姉ちゃん、起きて。何かこの村様子が変なの」


「え…?」


と、そのとき、下の方から物音が聞こえた。


人の話し声も聞こえる。


どうやらさっきの村人たちが入って来たようだ。


『双子はどこだ?』


『二階の奥の客間で寝ています』


『…よし、念の為数人ここに残れ。残りの者は二階へ』


声と共に足音が近づいて来る。


「み、澪…っ」


「…っ」


澪は不安げな繭の手を掴むと、部屋を出て廊下へと走った。


すると、そこに縄を手にした男の姿があった。


『いたぞ!双子だ!!!』


「!」


澪はとっさに向きを変えると、囲炉裏の間とは反対にある階段から一階へ下りた。


『逃がすな!』


『急げ!』


後ろから村人たちが追ってくる。


「澪…っ」


「どこか…どこかないの、出口!」


追われるまま二人は廊下のつきあたりにある部屋へと飛び込んだ。


障子戸の向こうに綺麗な庭が広がっている。


しかし出口は見つからない。


扉の鍵を閉めても踏み破られるのは時間の問題だろう。


「澪、どうしよう!」


隠れられる場所はないかと部屋の中を見回すが、部屋の中にあるのは箪笥や衝立、火鉢だけだ。


押入れもない。


ドンドンッと扉を叩く音が響く。


「このままじゃ…っ」


と、そのとき、澪の目にあるものが映った。


「お姉ちゃん、こっち!」


障子戸を開き、庭へ飛び出した澪は、その場にしゃがみ込んで繭を呼んだ。


「早く、入って!」


そう言って縁の下へと潜り込んだ。


それに続いて繭も潜り込む。


扉が破られたのはその直後のことだった。


『いないぞ、確かにここへ入ったのか?』


『そのはずだが…どこへ行ったのだ』


『庭に隠れておるのでは?』


足音が近づいて来る。


澪と繭は必死で見つからないことを祈った。


と、そのとき、


『窓だ!庭の窓から大座敷へ入り込んだんだ!』


『逃がすな!急げ!!』



「…もう大丈夫みたい」


そっと顔を出して、澪は繭を呼んだ。


「苦しかった…」


「でも一体何だったんだろう。なんで私達、追われなきゃいけないの?」


服についた土を払いながら澪は呟く。


「澪、もうこの村から出よう?もう一度川へ戻れば村へ帰れるかもしれないし。…それにもうここにいるの嫌だよ」


「うん、そうだね。ここならまだ山の方がマシだよ。行こう、お姉ちゃん」


二人は人の気配に注意しながら玄関へと向かった。


どうにか無事に逢阪家から出た二人は、元来た道を戻り、鳥居の前までやって来た。


しかしその向こうに道はなく、とても人が入れるような場所ではなかった。


「どういうこと?だって私達、ここから入って来たはずなのに…」


呟いてみるものの、ここを通るのは自殺行為だ。


「どうしよう、澪…これじゃ出られないよ」


「……仕方ないね。どこか別の出口を探そう。きっと他にもあるはずだよ」


「……うん」


不安そうな顔で繭は頷いた。


仕方なく逢坂家前まで戻って来ると、通りを歩く村人の姿が見えた。


「っ…お姉ちゃん、こっち!」


「!」


慌てて近くの茂みに身を隠すと、村人は二人には気づかぬまま通り過ぎて行った。


「……行っちゃったみたい」


「怖かった…」


ため息をついて立ち上がった瞬間、


『誰かいるのか?』


背後から声が聞こえて、心臓が飛び上がった。

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