どれほどの時間が流れたのか、ふと澪は物音を耳にして目を覚ました。 「ん……」 映り込んだのは見慣れぬ天井。 一瞬自分がどこにいるのかわからず奇妙な感覚に襲われた。 しかしふと隣に目をやって、すぐに安堵した。 布団にくるまってすやすやと眠っている姉。 「ここは…」 きょろきょろと辺りを見回すと、だんだんと眠る前の出来事が頭に浮かんだ。 「…そっか、ここ……私達、道に迷って泊めてもらったんだっけ…」 思い出すと同時に今が何時なのか気になった。 しかし部屋の中を見回しても時計は見当たらない。 ここは使っていない部屋だと言っていたから、置いていないのかもしれない。 そう思い、姉を起こさぬ様そっと部屋を出て、澪は囲炉裏の間へ向かった。 廊下に出て、なるべく音を立てないように気をつけながら階段を下りる。 ぼんやりと蝋燭の火が灯っているが、人の気配はない。 自分達を迎え入れてくれた千鶴という女性ももう寝入ってしまっているようだ。 「……おばあちゃん家より古い家みたい……」 澪たちの祖母・澄の家も、昔からある古い家なのだが、この逢坂家はそれよりさらに古い家のようだ。 しかし、いくら家が古いと言っても、時計がないとは思えない。 「…あんまり歩き回るのは失礼だよね」 諦めて戻ろうとしたとき、ふと外を歩く足音が聞こえた。 土間にある窓から外を見ると、松明を持った村人たちが歩いているのが見えた。 『しかし本当なのか?双子が戻って来たと言うのは…』 『ああ、間違いない。今、逢坂の主人が良寛様へお伝えに行っているはずだ』 『それで、その双子は今どこに?』 『逢坂家にいる。千鶴の話では双子は疲労しており、ぐっすり眠っておるらしい』 『よし、それなら早いところ捕まえて良寛様のところへ』 『いや、まて。もし途中で起きて暴れ出したりしたら面倒だ。ここは女共に任せて上手く誘導させればよい』 『そんなことを言って逃げられでもしたらどうするのだ』 村人たちは松明を持ったまま言い争っている。 「な、何…?双子って……まさか私達のこと?」 訳がわからず、澪は後ずさりする。 「千鶴……そうだ、さっき千鶴って言ってた。それってあの千鶴さんのこと?」 もう一度辺りを見回すが家の中に人の気配はない。 「……なんだかわからないけど、怖い……やっぱりここにいない方がいいのかも」 急に怖くなり、澪は二階で眠る繭のもとへと向かった。 no 次へ [しおりを挟む][戻る] |