蔵の前まで来ると、固く閉じられていた扉が開いていることに気づいた。 そっと中へ入り、牢の中を懐中電灯で照らすと、一瞬、首を吊った少年の姿が見えたような気がした。 ぎょっとして瞬きを繰り返すが、そこにはただ無人の牢屋があるだけで、少年の姿はどこにもなかった。 「澪…どうかした?」 立ち止まっている澪に繭が声をかける。 「な…何でもない……」 澪は震えた声で答えて牢の中に入った。 倒れた机に散らばっている本、壁に掛けられた色褪せた着物、そして長い間開かれた様子のない格子窓。 あのとき確かにこの窓を通じて少年と言葉を交わしたはずなのに、どんなに力を込めても窓は開かなかった。 「一体どうなってるの……」 思わずそう呟いたとき、繭が何かを見つけて澪を呼んだ。 「何だろうこれ…?」 それは四枚の羽が描かれた丸い小さな石板だった。 緑色の羽に混じって、一枚だけ紅い羽が描かれている。 「澪、これ…」 そう言って繭から手渡されたのは、綺麗な水晶原石だった。 樹月が持っていたものだろうか…。 「…澪?」 「試してみよう」 澪はそう言うと、霊石ラジオに水晶原石を入れた。 するとしばらくのノイズの後、少年の声が響き始めた。 『……八重……紗重…………これは運命なんだ…………。僕達はみんな……御子として生まれ…御子として死んでいく………それがこの村の掟……決して逃れられない…………。 僕はこの手で睦月を………それしかなかった………それしか………殺すしか………。でも僕は……村のために睦月を殺したんじゃない………僕は…………でも…………。 僕は父さんの後を継ぐつもりはない……僕はもう………。たとえ兄さんが帰って来たとしても……そのとき僕はもうここにはいないだろう……。わかったんだ……やっと……やっと許してもらえる方法が……だから僕は……。 もし二人がまだ希望を捨てていないのなら……まだ運命に抗うつもりなら………朽木に行くといい………兄さんと姉さんが使った神社の……村の外に繋がる……封印を解く為の家紋風車は……村の四つの家の………』 そこでプツンと声は途切れ、ノイズも消えた。 「家紋風車…?」 「それってこの石板のことかな…」 確かに、羽が描かれた石板は風車に見えなくもない。 石板の裏には家紋らしき模様も彫り込まれている。 「朽木……そういえば、村の西の方に大きな木が見えたね」 繭が言い、澪は頷いて牢を出た。 「行こう、お姉ちゃん。朽木へ…」 「うん…」 繭は頷いて澪の後を追った。 前へ 次へ [しおりを挟む][戻る] |