立花家から天の橋を渡って、桐生家から外に出た澪と繭は、樹月が閉じ込められている蔵へと向かっていた。 しんと静まり返る通りを歩きながら、ぽつりと繭が呟く。 『八重……本当に逃げるの……?』 足を止めて振り返ると、繭は訝しげな顔で澪を見た。 「澪、どうかしたの?」 「お姉ちゃん……今、何か言わなかった?」 繭はますます訝しげな顔をする。 「……ごめん、私の聞き間違い…かも」 そう言って澪はまた前を向いて歩き出した。 しかし、それからしばらくしてまた後ろからぽつりと呟く声が聞こえた。 『私達のせいだよ……私達が逃げなければ、みんな死なずに済んだのに……』 澪はもう一度足を止めて後ろを振り返った。 繭は俯いたまま何も言わない。 「……お姉ちゃん、しっかりして。きっともうすぐこの村から出られるから。そしたら、すぐにお婆ちゃん家に帰ろう?きっと叔父さんたちも心配してる」 しかし繭は黙り込んだままだった。 澪は不安になって繭の肩に手を置いて言った。 「私達はずっと一緒だから……。約束、したでしょう?だから、もう何も考えないで。私が絶対お姉ちゃんを守ってみせる。絶対に…」 繭はゆっくりと顔を上げる。 「何があったって、私はお姉ちゃんを置いてったりしないよ。もう…二度と、お姉ちゃんを一人になんかしないから。私がお姉ちゃんを守るから。だからもう…どこへも行ったりしないで」 「澪……」 繭はそっと澪の手を握り締めた。 「お姉ちゃん、行こう。もう少しだから」 「…うん……」 二人は固く手を繋いで蔵へと向かった。 no 次へ [しおりを挟む][戻る] |